第8話 世紀末のまじゅちゅし









佐伯「ちーっす。あれ? てっさん先輩、出掛けるんすか?」

坂田「ああ、の店に行ってくる。その後、そのまま三国志のオフ会に行くから、適当にしてろ。トキヤもいるから」

佐伯「はーい、お邪魔しまーす。ってか、、GW中ずっとバイトなんすか?」

坂田「ああいう店はこういう祝日こそ稼ぎ時だしな。まあ、今日は早番だって言ってたし、夜にはこっちに来るんじゃないのか? じゃ、いってくる」

佐伯「いってらっしゃーい。――三国志のオフ会って何」

倉橋「今更それにつっこむのか、お前は」

佐伯「いや、つい。で、お前は何してんの?」

倉橋「コナン君の映画見てる」

佐伯「どうしたトキヤ!? どっちの影響だ!?」

倉橋「いや、どっちかって言われればてっさんかな? さっきまで、てっさんが見てたんだよ。で、つけっぱなしで行っちゃった」

佐伯「なんだ、驚かせんなよ。面白ぇの?」

倉橋「うん、結構。完璧に子供向けって訳じゃないんだよなー」

佐伯「へー、何てやつ?」

倉橋「えーっとね、確か、世紀末のまじゅちゅ――」

佐伯「……なんだって?」

倉橋「……せ、世紀末のまちゅちゅ、まじゅちゅ、ま、」

佐伯「な・ん・だ・っ・て・?」

倉橋「やめろ! そんなSっ気たっぷりな目で俺を見んな! 大人しくコナン君見てろよ!」

佐伯「耳まで真っ赤になんな! 気持ちわりぃな!」

倉橋「うるさい!!」




佐伯&倉橋「――は!」

佐伯「き、気が付きゃ最後まで真剣に見ちまった……」

倉橋「ホントにね……」

佐伯「怪盗キッドはあれだな! が好きそうだよな!」

倉橋「あ、俺も思った。まあ、普通に格好良いもんね」

佐伯「キザな言い回しとか、声のトーンもそんな高くねえし」

倉橋「確か、工藤新一とキッドって同じ声なんだよね」

佐伯「新一より、絶対はキッドの声の方が好きだと思うんだよなー。新一はちょっと高いし」

倉橋「あー、そうだね。さん、基本的に低い声の方が好きだもんね」

佐伯「あいつの声フェチ度はハンパねえもんなー。好きになる男の条件が『喋り声と歌声と咳払いが好みなメガネ』だぜ? もう変態の域だよな!」

倉橋「……あ、ちょっと待って」

佐伯「は?」

倉橋「俺、こっちに移動するから……はい、どうぞ」

佐伯「お前、何言って――」

「それじゃ、遠慮なく」


ドサドサドサドカッ!!


佐伯「のわあああ!?」

倉橋「おかえり、さん」

「ただいま、倉橋さん。コンビニで適当にお菓子買ってきたんで、その辺に散らばってるの、よかったら食べてください」

倉橋「ありがと。じゃ、カズナの頭の上のじゃがりこ貰おうかな」

佐伯「〜〜!! いきなり何しやがる!!」

「今、ご自分にされた仕打ちについての理由を私に求めたんですか? 胸に手を当てて考えやがれですよ」

倉橋「お疲れ様〜。今ね、コナン君の映画見てたとこなんだよ」

「コナン君の? ああ、テレビで放送でもされてましたか? さすがゴールデンウィーク」

倉橋「それ見てて、『さんは絶対キッドが好きだろうね』って話してたトコ」

「ああ、はい。よく分かりますね。キッドが一番好きです。新一も好きなんですけど、若干声が高いんですよね」

佐伯&倉橋「アハハハハハ!!」

「な、何ですか? どうかしました?」

倉橋「いや、あんまり予想通りの答えが返ってきたもんだから……」

佐伯「なーなー、今、コナン君の映画、上映されてるんだろ? メシ食ったら見に行かねえ?」

「め、珍しいですね。そんなに面白かったんですか?」

佐伯「うん。あいちゃん可愛かった」

「サラッとロリコン発言!
    ……ちなみに、何の映画だったんですか? キッドが出てくるって事は、探偵たちのレクイエムか銀翼のマジシャンか世紀末のまじゅちゅ――っ」


佐伯「なんだって?」

「何でもありませんよ。こっち見ないでください心底嬉しそうな顔で覗き込まないでやーめーてー!」

倉橋「やめろよ、カズナ。お前も充分変態だぞ。世紀末のやつだよ。タマゴのやつ」

「よりにもよって最高傑作! まあ、どうせ私は見に行くつもりでしたし、いいですよ。一緒に行きましょうか」

倉橋「うん。今やってるやつは、何てタイトルなの?」

「戦慄のフルスコアですよ」

倉橋「何か、小洒落てるんだねえ」

佐伯「子供、絶対意味分かってねえだろ」

「まあ、行けば分かりますよ」




佐伯&倉橋「――子供がいない!」

「レイトショーだからっていうのもあるんですけど、コナン君を見に来るのは大人が多いですよ」

佐伯「普通にカップルとかいるし!」

「失礼な驚き方はやめてください」

倉橋「俺、何か飲み物買ってこよーっと。さんは? 何か飲む?」

「私はトイレが近くなるんでやめておきます。買っちゃうと、やっぱり全部飲まないともったいないような気がするんですよね」

倉橋「そう? だったら俺のをちょっと飲めば? オレンジジュースにするね〜」

「……ありがとうございます」

佐伯「俺はポップコーンも買お。――あ、塩で」

店員「350円になります」

佐伯「っと、、10円持ってねえ?」

「ちょっと待って……ああ、ありますよ。はい」

佐伯「サンキュ。お前も、10円分食っていいぞ。塩舐めろ、塩」

「ありがとよっっ!」




倉橋「席はどの辺にする〜?」

佐伯&「一番後ろ」

倉橋「スミマセン、一番後ろって空いてますか? ――ダメ、もういっぱいだって」

佐伯「んじゃ、空いてる内で後ろの方な。やっぱ混んでんだな、ゴールデンウィークって」

「そうですね。私、いつも平日のレディースデーに来るんで、こんなに混んでる映画館は久し振りです」

佐伯「お前、どっこも行かねえの? GW中」

「仕事がありますしね。それに、どこに行っても人だらけでしょう、きっと」

佐伯「出不精だもんなー。インドア派っつーか」

「外に出たら出たで楽しめるんですけどね。佐伯さんはアウトドア好きそうなのに、どこにも行かないんですか?」

佐伯「金が無い」

「……バイトでもしたらどうですか」

佐伯「だよなー。このままじゃ、夏休みもどっこも行けそうにねえもんなー。海とかー、プールとかー、海とかー、海とかー!」

「はいはい、頑張って貯めてくださいね」

倉橋「お待たせ! Kの7〜9だって。後ろの方だけど、席は真ん中だね」

佐伯「ん、まあしょうがねーだろ。この混雑ぶりじゃな。ホラ、。お前8番な」

「え?」

佐伯「他人が隣に座んの嫌だろ、お前。ホイ、俺のポップコーン持ってて。トイレ行ってくる」

「あ、の、ちょ、」

佐伯「あ、待ってる間、塩なら舐めてもいいぞ。塩なら」

「しつこいですよ!? そうじゃなくて、あ――」

倉橋「――行っちゃった」

「あの人、本当に、なんで、……お礼くらい言わせてくれないんでしょう」

倉橋「そりゃ、あいつ――」

「分かってますよ。当の本人は、お礼言われるような事、してるつもりないんでしょう?」

倉橋「うん、まあね。そういう奴だから」

「…………………………(パクッ)」

倉橋「――え、ポップコーン食べちゃうの!?」

「(パクパクパク)」

佐伯「おまた〜。って、おまっ!? ものすごい勢いで何食べちゃってくれてんだ!?」

「――っん、は〜、おいしい。やっぱりポップコーンは塩味ですよね。
    はい、佐伯さん。ありがとうございました」


佐伯「どういたしましてっっ!!」

倉橋「も〜、しょうがないな〜。ホラ、そろそろ席に行かなきゃ。始まるよ」

「わ! 私、予告編からしっかり見たい派なんですよ!」

佐伯「俺も俺も! 急ぐぞ!」

倉橋「うわわ、待って待って!」

佐伯「おせぇぞ、トキヤ! 競歩だ! 競歩を使え!」

「そうですよ、倉橋さん。走らず急いでください」

倉橋「二人とも! その速さで足並み揃ってると、正直ちょっと気持ち悪いよ!?」




「よかった。開演前に座れましたね」

佐伯「だな。――今回の見所は何でしょうか、サン?」

「そうですね〜。何も開始2分前にそんな事聞かなくても今から見るだろって話なんですけど、しいて言うなら……南海キャンディーズの山ちゃん?」


倉橋「今、スクリーンの向こうでコナン君涙目だよ!?」

「あと、千里ちゃんも出ます」

倉橋「何のフォローにもなってない!」

「まあまあ。多分……見終わったら、私の言ってる意味も分かると思うんで。
   ――あ、ケータイ切らなきゃ。電源電源」


佐伯「あ、俺も」

倉橋「俺も切ーった、と。あ、始まるね」




……観賞中……




倉橋「…………終わったね。……? 二人とも、どうしたの?」

「――え? あ、いえいえ」

佐伯「いやいやいや」

「いえいえい出ましょうか!」

佐伯「そうだな! 出よう!」

倉橋「え、え、ちょ、待って! な、何でまた競歩!? しかも来た時以上のハイスピード!」

佐伯「うるさい!」

「急いで!」

佐伯&「団体行動を乱すな!」

倉橋「えええええ!?」

佐伯「お前が上映前に言ってた意味が分かったぞ! こういう事だったんだな!」

「その話はまた後で! 上映直後の映画館で、あまり否定的な感想は誰かの気分を害してしまう恐れがありますからね!」

佐伯「早く帰ろう!!」

「あ、待ってください。レンタルビデオ店に寄って行きましょう」

倉橋「また何か見るの!?」

佐伯「いいな、それ! 当然、コナン君を借りるんだろ? お前オススメの」

「はい。作品的に出来がいいのと、ファンサービスがいいのと、どっちがいいですか?」

佐伯「お前が薦めんなら面白いんだろ。どっちも借りよう」

倉橋「ねえ、俺、また仲間外れなんだけど!!」




佐伯「天国へのカウントダウンは、あいちゃんの出番多いなー」

「そうですね、ある意味主役ですしね。それにしても、歩ちゃんやら光彦やらの言動にはキュンキュンさせられるんですけど……」

佐伯「こっ恥ずかしくなってくるよな」

「ホントにね。――あ、倉橋さん寝ちゃいましたね。佐伯さん、お姫様抱っこでベッドに運んであげてください」

佐伯「いやです。うし、次は探偵達のレクイエムー♪」

「仕方ないなあ。倉橋さん、掛け布団で我慢してくださいねー、っと。……なにちゃっかり自分も入ってるんですか」

佐伯「まあまあ。お前も入れって。ホラ、そっちがわ」

「倉橋さんを真ん中に? フフッ、今日は『仲間外れ』とか言って嘆いてましたしね。……あんまり可愛い事言わないでほしいなあ。
   ――あ、そのプリッツ取ってください。バターの方」


佐伯「んー。一本ちょーだい」

「どーぞ」

佐伯「は〜。しっかし、あれだな」

「ん? ――ああ、はい。あれでしたね」




佐伯&「微妙だった!!!」




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