第5話 チューペット









佐伯「あー、大分暖かくなってきたよなー」

倉橋「そうだね〜。そろそろ桜も咲き始める季節だしね」

佐伯「花見だ!」

倉橋「わあ!」


佐伯「そうだよ、花見だよ花見。お前、今年こそ花見行くぞ」

倉橋「あ、あー、そうだね。去年は結局行く前に散っちゃったからね〜」

佐伯「お前がなかなか行こうとしないからだろ! 結局俺、一人で行ったんだからな! 何だよ一人で夜桜って! 俺をそんな淋しい奴にするな!」

倉橋「ご、ごめんってば。今年はちゃんと付き合うから。……多分」

佐伯「開花宣言ってもうされたっけか?」

倉橋「さあ……ニュースあんまり見ないから分かんないなあ。ねえ、でも思ったんだけど、男二人で花見って、そっちの方が淋しくない?」

佐伯「考えるな! 考えさせるなバカ!」

「ただいま〜……って、よく考えたら『こんにちは』なんですよね、てっちゃんの家なんだから」

倉橋「おかえり。最近、みんなして入り浸ってるからねえ。てっさん先輩本人はあんまり帰ってこないのに」

佐伯「おかえりー。って、おわ!? 何だ、お前、その大荷物は!!」

「これですか? さっきスーパーに寄ったら、もう売り出されてたんですよ!」

佐伯「おー! チューペットか! 早くね? 毎年、夏前にならねえと売ってねえだろ?」

「ですよね、ですよね! 私、これ大好きなんですよ。嬉しくて、つい買い過ぎちゃいました」

倉橋「ねえ、何それ?」

佐伯&「ええ!?」

倉橋「え、なに、一般的なものなの? それ」

佐伯「トキヤ、お前、チューペット知らないのか!?」

「一般的も何も、これを知らないでどうやって幼少時を過ごせるんですか!」

佐伯「だよな、だよな! 少ない小遣いだと、1個100円もするアイス買えないもんな!」

「だから、1本20円そこそこで買えるこのチューペットは子供達みんなの味方だったのに……」

倉橋「え、それってアイスなの? 液体じゃん」

「このブルジョワジーがあ!」

佐伯「おお。トキヤがに怒られるのは珍しいな」

「コホン。これは凍らせて食べるものなんですよ」

倉橋「そ、そうなんだ。美味しいの? って、二人がそんなに好きなんだから当然か」

「もちろん。それじゃ、早速凍らせて食べましょう。いっぱいありますから、倉橋さんも遠慮しないで食べてください」

佐伯「っていうか、食えv そしてこいつの魅力にハマれv」

「そうです、そうです。存分に味わってください」

佐伯&「そして夏が終わり、冬の間はどこにも売っていなくて食べられないという苦しみも味わうがいいわ!」

倉橋「熱い……熱いよ、二人とも……」

佐伯「あ、でもこれってすぐに固まらないんだよなー。最悪、明日にならねえと食えねーんじゃねぇ?」

「ふっふっふ、甘いですよ佐伯さん。こうやってチューペットを水で濡らして冷凍庫に入れれば――」


チッチッチッチーン


「ものの一時間ほどでカチンコチンでーす♪」

佐伯「お前天才だな!!」

「さ、食べましょう。まずは倉橋さん、何色がいいですか?」

倉橋「えっと、じゃあピンクで」

佐伯&「やっらし〜」

倉橋「なんで!?」

「いえいえ、はい、どうぞ」

倉橋「あ、ありがとう。……? これ、どうやって食べるの?」

「…………今、心の中のもう一人の私が、見事なまでのドリフズッコケを披露しましたよ」

佐伯「奇遇だな。俺もだ」

倉橋「もう! どうやって食べるの? ねえ」

「どうやって食べるんだと思います?」

佐伯「むしろ、どうやって食べるのか見てたいよな」

倉橋「え、ちょっと、教えてくれないの? 何なのもう、さっきから。変なトコで結束力があるんだから……。えーっと、固いから、包丁で先っぽを切っちゃえばいいかな。えい!」

「うわあ!」

佐伯「こいつ、よりにもよって!」


倉橋「え、なになに? ダメ?」

「駄目も何も――佐伯さん!」

佐伯「おうともよ! チューペットっつったら、こう、やっ…て、 半分に折って食うもんだろうがぁ! それをお前、何つう一人よがりな食い方を……!」

「ホントですよ、もう……。でも凄いですね、佐伯さん。私、力が弱いもんだから、足にぶつけるようにして折らないと、真っ二つにならないんですよね」

佐伯「ハッハッハ、ホラ、半分こ」

「ありがとうございます」

倉橋「何か俺、さっきから仲間外れだ……あ、おいしい」

佐伯「だろー? あー、久し振りに食べるーv」

「長い冬でしたからねえ……って、倉橋さん。そんな、最初にあんまり吸い過ぎちゃうと――」

倉橋「ん? 何? ……あれ? 味がしなくなっちゃった」

佐伯「あ、おま、バカ! 最初に蜜吸い過ぎたら、氷しか残らねぇの当たり前だろ!」

「初心者がよくやるイージーミスですね」

倉橋「チューペットに初心者もプロもあるの!?」

「ほら、倉橋さん。こうやって、歯で氷をシャリシャリ噛みながら甘い所も一緒に食べるんですよ。で、最後の方になると氷も溶けてくるんで、そこで全部吸っちゃえばいいんです。ちゅーって」

佐伯「もう一本食ってみろ。オラ、ちゅー」

倉橋「ちゅ、ちゅー?」

佐伯&「だから、最初に吸っちゃ駄目だってば」




「さ、寒い……」

佐伯「サムイな……」

倉橋「二人とも食べすぎ! 食べすぎだから!」

「だ、だ、だ、大丈夫ですよ。こうやって、毛布にくるまって食べてれば、も、問題ありません」

倉橋「ガタガタ震えながら何言ってるの! ダメだったら! ちょっと休憩しなさい!」

佐伯「お、お、お、俺も入れてくれ、。ま、マジで寒い」

「い、い、い、いいですよ。そ、その代わり、チューペットもう一本持ってきてください。半分こしましょう」

佐伯「おう、りょ、了解」

倉橋「もう〜、二人とも! そんな事してたら、チューペットの食べすぎで、文字通りチュー毒になっちゃうからね!!」

佐伯&「…………」

倉橋「あ、あれ?」

「……佐伯さん、チューペットと一緒に、温かいココアも淹れてきてください」

佐伯「そっちも半分こ?」

「はい、もちろんです。今、一気に温度が下がりましたからね。このままだと風邪をひいてしまいます」

倉橋「だから! もう! とりあえずチューペット食べるのをやめなさいってば二人とも! それから、俺も仲間に入れて〜!」




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