第4話 携帯電話









「ただいま〜」

倉橋「さん!」

「ひぃ! は、は、は、はい! ど、どうしたんですか? ちゃんと買ってきましたよ、イチゴミルク」

倉橋「も〜! ちゃんとメール読んでるんじゃない! だったら返信してよ、心配するでしょ〜!」

「ああ……スミマセン。私、メール不精で……」

佐伯「どうした〜? 何の騒ぎだ?」

倉橋「バイト帰りにこっち(てっさん家)に寄るって聞いてたから、ついでに何か飲み物買ってきてってメールしたんだけど、さん、返事くれなくて」

「どうせ、十数分後には会うんだし、いいかなって。心配しなくても、ホラ、ちゃんと買って来ましたってば」

倉橋「誰がイチゴミルクの心配をしたの!!」

「え、ああ、私の心配をしてくれたんですか? ありがとうございます」

佐伯「お前、ホントにメールの返事とか遅いモンなー。最悪、返信してこねーし」

「返信が絶対に必要なものとかならするんですけどね。ケータイメールって、まどろっこしくて嫌いなんです」

倉橋「女の子でそれって変わってるよね」

「そうなんでしょうね。家にいる時とかなら、夜寝る前に一気に返すんですけどね。パソコンから」

倉橋「ぱ、パソコンから?」

「はい。パソコンから自分のケータイに送って、そこから適当に絵文字付けて返して、次の返信が来るまでに寝ます」

佐伯「何でだよ!?」

「延々とメールのやり取りが続くのも嫌いなんです」

佐伯「大体お前、適当に絵文字付けてとか言ってるけど、俺へのメールには絵文字さえ付いてねーじゃねえか! もっと可愛げ出してみろ!」

「絵文字と可愛げは猫かぶりバージョン時のみとなっておりますので」

倉橋「本当に苦手なんだねえ」

「はい。正直、いまだに使い方がよく分かりません」

佐伯「アドレス登録が出来ないって言われた時は、こいつホントに現代っ子かって思ったもんな」

倉橋「結局俺達が全部登録したもんね」

「お世話になりました」

佐伯「ちょっとぐらいは覚えろよ。っていうか、さっきのトキヤみたいな場合は、絵文字も何も付けなくていいから、とりあえず返せ」

倉橋「そうそう。『うん』とか『了解』とか、自衛隊員みたいなのでもいいからさ。そこは面倒くさがっちゃ駄目だよ」

「……はーい」

佐伯「今、『面倒くせーなー』とか思わなかっただろうな?」

「思ってないですよ、流石に!」

佐伯「ホントか〜? ちょっとケータイ貸してみ?」

「はあ……はい」


ピッピッピッ


佐伯「ほい。サンキュ」

「何かしたんですか? ――っ!!」

倉橋「どうしたの? さん」

「登録してある佐伯さんの名前の後ろにハートマークが付いてる!」

佐伯「体で覚えろ、使い方v 頑張って消せよー、アハハハハ!!」

「何っって嫌な人なんだ! 倉橋さん! この名前変更ってどうやってするんですか!?」

倉橋「いやー、俺もちょっとは覚えた方がいいと思うんだよね」

「こんちくしょう!!」

倉橋「頑張って、さん。あ、俺が今から何かメール送ってみるから、返してみてね。練習練習」

「それどころじゃないって事が見て分かりませんか!?」

倉橋「じゃ、あっちの台所から送ってみるねー。ホラ、カズナ、行くよ」

佐伯「おー。って、こんな狭い家でわざわざ離れる意味はあんのか?」

倉橋「気分気分」




倉橋「何て送ろうかなー。まあ、無難に……『今、何してるの?』」

佐伯「お前、何気にの事可愛がってるよなー」

倉橋「え? だって可愛いじゃない」

佐伯「マジで!? どこがだよ!?」

倉橋「何だかんだ言ってても素直だし。さっき頼んだ飲み物だって、何が飲みたいって言ったわけでもないのに、ちゃんと俺の好きなイチゴミルク買ってきてくれてるし」

佐伯「だからって、あいつが『可愛い』ねぇ……」

倉橋「だって……ホラ、ちゃんとカズナの分も買ってきてくれてるよ? カズナの好きな、カラアゲ君も一緒に」

佐伯「……」

倉橋「あとでお礼言いなよね」

佐伯「へーへー。……そういやお前、大家さんとこの娘さんとはどうなの?」

倉橋「え!? ど、どうって!?」

佐伯「何か進展とかあった?」

倉橋「進展なんて……そんな、ないよ。あるわけないじゃん。ムリムリムリ。たまに挨拶するぐらいだよ」

佐伯「は〜、お前ってホント、本命にはダメダメだよな〜」

倉橋「頑張ってるんだよ、俺だって……」

佐伯「ってか、からの返信まだ?」

倉橋「まだ。苦戦してるのかな〜」


〜♪〜♪〜♪


倉橋「あ、きた。なになに〜? 『倉橋さんからのメールを読んでます』」

佐伯「……」

倉橋「……」

佐伯「……やっぱり、あいつは、本当に、心っっ底! ……可愛くねえな」

倉橋「そ、そういう事言わないの。聞こえちゃうでしょ」


〜♪〜♪〜♪


倉橋「あ、またきた」

佐伯「お。今度は早いじゃん」

倉橋「えーっと、『色々いじってたら、佐伯さんのアドレスが消えちゃいました』……だって」

佐伯「はあ!? あ、しかもあんにゃろう! こっちにはしっかり絵文字付けてやがる! しかもピースマークの! 間違ってんだろ、それは!」

倉橋「いや、さん的にはこれで正解なんじゃない?」

佐伯「てめぇ!! もう一回ケータイ貸しやがれ! 今度は俺のアドレス、『鈴木達央』で登録し直してやる!!」

「な!? お断りですよ! そんな、佐伯さんのメールが来る度にほんのり幸せ気分になるなんて、力の限りに不本意です!」

倉橋「ふ、二人とも落ち着いて。てっさんの家、もの凄く色んな物がゴチャゴチャしてるんだから、あんまり走り回ると――ああ! 青龍円月刀がぁ!」




坂田「あのな、お前ら。俺の家をたまり場にするのは、別に構わないさ。俺がいない間でも、自由に交流を深めるがいいさ。
    けどな、家の中でアハハウフフと追いかけっこするのはどうかと思うなー。ここは夕日暮れなずむ夏の浜辺ですかー?」


「だって佐伯さんが」

佐伯「だってが」

坂田「シャアラァアアップ! 見なさいよ、YOU達! この部屋の惨状を! 何をどうしたら、あの棚がこうなってそうなってああんもう!!」

倉橋「そうだぞー、お前らー。ついでにこの俺の頑張りも見ろ。何で俺が片付けてるんだ。手伝えよ、まったくもう」

佐伯「だっててっさん先輩が正座解除してくんねーんだもん」

「元はと言えば佐伯さんがしつこく追っかけてくるからだもん」

佐伯「お前が素直にケータイ渡せばよかったんだろ。人が親切に登録し直してやろーってのに」

「アドレスを登録し直す前に、『親切』の意味を辞書で引き直してきてください」

佐伯「おーおー、ついでに『素直』も調べてお前のDS画面に貼り付けといてやる。ガムテで」

倉橋「二人とも、また喧嘩始めるつもりなら……俺、そこの青龍円月刀に手が伸びそうだよ?」

佐伯&「ごめんなさい」




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