第39話 ほんとうは










そばにいてやるから……ずーーっと、一緒にいてやるから


本当は――本当は。
















佐伯「お前ら! 財布に金は入れたか!」

倉橋&「うっす!」

佐伯「欲しいモンは大体心に決めてきたか!」

「うっす!」

倉橋「う、うっす!」

「いや、トキヤ君、絶対嘘でしょ」

佐伯「こいつの優柔不断さは半端じゃねえからなあ」

倉橋「だ、大丈夫だよ! ちゃんと考えてきたから」

「本当に?」

倉橋「……とりあえず、ちゃんのを先に買いに行こう」

「……了解」

佐伯「こうやって後回しにしても、どうせうだうだ悩むんだろうなあ、こいつ」

倉橋「もー、しょうがないだろ! 性格なんだから! ほら、行こ行こ!」

佐伯「えーっと、結局……の買いモンはいくつになるんだっけ? 俺とトキヤからのホワイトデーと」

倉橋「俺からの誕生日プレゼントで、計3つだね」

「で、私とカズナ君から、トキヤ君へのバースデープレゼントで、トキヤ君が計2つね。な〜に買ってもらおっかな〜v」

佐伯「ドンキは飽きなくていいよな〜。俺、ここ大好き♪」

「トキヤ君の優柔不断っぷりに拍車がかかる場所だけどね」

倉橋「あああ、さっきから商品が目に入るたんびに、俺の中の欲しい物リストが……! ものすごい勢いで更新されてる……!」

佐伯「あー、自転車欲しい、自転車。折りたためるやつ」

倉橋「自転車?」

「バイト行く時の?」

佐伯「そー」

倉橋&「……」

佐伯「って、そういや今日、俺だけなんも買ってもらえねえ!!」

倉橋&「え……今頃気が付いたの……?」




佐伯「んで? 何が欲しい?」

「まず1個めはゴミ箱ー」

倉橋「ご、ゴミ箱!?」

佐伯「ここまで可愛げのないモンをねだられたのは初めてだ!」

「な!? 私だって、彼氏とかになら、もっとちゃんと空気読んだ物をねだりますよ!」

佐伯「あー、あー、そうだったな。お前、俺らの前では可愛げないのがデフォだったな」

「何て失礼な……」

倉橋「ちゃん、否定はしないんだね……」

佐伯「ゴミ箱ってどんなんがいいんだ? 蓋付きとかか?」

「んーん。口が広いやつ」

倉橋「大きいやつってこと?」

「基本、座ってる所から投げ入れるから、シュート成功率が高そうなやつがいいなー」

佐伯「うわー! こいつダメ女だー!」

「か、カズナ君だって、しょっちゅうやるでしょ! 密かに願掛けまでするタイプのくせに!」

倉橋「んで、外す度に俺に拾わせるんだよな、お前」

「ホント俺様なんだから……」

佐伯「お前にだけは言われたくねえぞ、こら」

倉橋「よく考えたら、俺の周りって俺様ばっかりだ!」

佐伯「うわ、何だこいつ」

佐伯&「今頃気が付いたの?」




「で、トキヤ君。何か思いついた?」

倉橋「うん、クッション欲しいなーって。ソファに合うやつv」

佐伯「ああ、あのバカでかい……」

「何色なんだっけ?」

倉橋「赤色。真っ赤」

「なら、柄物とかじゃなくてシンプルな方がいいかなー」

倉橋「とか何とか言いながら、その手に持ってるのは何!」

「万札柄」

倉橋「ちゃん!」

「福沢諭吉柄?」

倉橋「柄名の訂正を求めたんじゃないよ!」

佐伯「トキヤ、トキヤ! これは?」

倉橋「何それ!?」

佐伯「イエス・ノー枕」

「アハハハハ!」

倉橋「それを俺にどうしろと!? ってか、俺が欲しいのはクッションな・の! 枕、枕ノー!」

「アハハハハ! ま、『枕ノー』!」

倉橋「ちょっともう! 真面目に選んでよ! ちゃんも爆笑してないで!」

「ご、ゴメンゴメン」

佐伯「んじゃ、とりあえず色決めろ、色。何色がいいんだ?」

倉橋「えっとねー、白色かな? 真っ白とかじゃなくて、オフホワイトみたいな柔らかい感じの」

佐伯「オフホワイトってどんな色だっけ?」

「確か……白色が黄ばんだような色だったと……」

倉橋「ひどい言い方をした!」

「だって他にどう表現しろと……」

佐伯「なら白いやつ買って、黄ばむのを待てよ。わあ、一粒で二度おいしい☆」

倉橋「いやだよ! 普通にオフホワイトのやつ買ってよ! 俺の誕生日なのに!」

佐伯「だぁあ! 男が『オフホワイト』『オフホワイト』って乙女ちっくな単語を連呼すんなあ!」

倉橋「何色がいいって言うから答えただけなのに! オフホワイトのどこが乙女ちっくなんだよ!」

佐伯「生まれて死ぬまでの間、が一回も口にしなさそうなトコがだよ!!」

「うぉい、ちょっとぉ! 今何言ったそこの人!!」

佐伯「ああん、何か反論でも!?」

「私だって、乙女チックだったりお洒落チックな色くらい!」

佐伯「ほー、ほー? 例えばー?」

「ぱ、パールホワイトとか、ラディアントレッドとか、ライムグリーンとか!」

佐伯「それ全部PSPとかDSとかの色だろうがー!」

「なぜバレたー!?」





倉橋「く……クッション一つ買うのに、何でこんなにゼーハー言わなきゃなんないんだ……」

「かず、カズナ君と買い物に来ると、いっつもこ――うぎゃ!」

佐伯「俺からのホワイトデー、これにする?」

「な、なにこれ!?」

佐伯「ウサ耳」

「ウサ耳!? 営業時間でもないのに、こんなもん着けてられますか! 職場に売るほどあるわ!」

倉橋「売るほどあるの!?」

「大体こういうのは、トキヤ君の方が」

倉橋「う、わわ」

「似合うと――」

佐伯&「……」

(し、しまった。シャレにならんくらい可愛い)

倉橋「何でそこで黙っちゃうのさー! 放置プレイはやめてー!」

佐伯「うっせぇ、ドMが! 喜んでんじゃねえよ!」

倉橋「誰がいつ喜んだ!?」

「トキヤ君は、ウサ耳よりイヌ耳の方が似合いそうだねー。どっかにないかなー」

倉橋「探さなくていいから!」

佐伯「自分で選んどいてなんだけど、はウサ耳よかネコ耳だよなー」

「再びくっつけなくていいから!」

佐伯「『ニャン♪』っつってみ? 猫かぶりv」

「キシャー!」

倉橋「あああ、もう二人とも、狭い通路で暴れないでよ……」

佐伯「いったたたた、バカ、お前、引っ掻くなよ」

「まったく……着けてほしいんだったら、もう少し可愛くおねだりしてよね」

佐伯「『可愛く』、ねぇ……」

「そうそう、可愛らし〜く――」

佐伯「あ〜ら、こんな所にメガネコーナーが〜」

「な……!?」


装☆着


佐伯「――で? ちゃん? ……何を、ど・う・し・て、欲しいって?」

「ちょ、あの」

佐伯「ん?」

「〜〜!!」

倉橋「そこの二人……薄暗い通路で変なムードを醸し出さないでよ……」

佐伯「ハハッ、こいつ、ホント眼鏡弱いなー」

「眼鏡は……ずるい……!」

佐伯「何でそんなに眼鏡が好きなんだ?」

倉橋「そういえば、トモも眼鏡掛けてるもんね。やっぱり眼鏡掛けてる人の方が好きなの?」

「え? あれ、言った事なかったっけ? 逆、逆」

佐伯「逆?」




「私、トモが眼鏡掛けてたから、眼鏡好きなの」




――だって、あいつ眼鏡好きだし




佐伯「――っ」

倉橋「あ、え、そうだったの?」

「うん。トモには絶対内緒ね」

倉橋「アハハ、うん」

「今じゃ、そんな事すっかり関係なく好きだけどね! 黒縁最高!」


トモは、私が唯一、猫をかぶらないで、素で付き合った相手です

何であんたは、誕生日に元かのを誘ったりするの……

……き、基本的に、トモには逆らえないというか……



――ああ、そうか。
今更、別に驚く事でもなんでもない。
彼女は、最初から、ずっと、言っていたではないか。

高森トモは特別だと。

じゃあ、じゃあ――



「あ、私、ちょっとトイレ行ってくる」

倉橋「いってらっしゃーい。じゃあ俺、ちょっと向こうの方見てくるねー。カズナは、ここでちゃん待っててあげて」

佐伯「おー」


遠ざかっていくの後姿を見送る。
結わえられた髪のてっぺんでは、トモから贈られた髪飾りが揺れていた。


トモが、特別で。
トキヤに、焦がれて。

じゃあ、、――俺は?

「傍にいてやる」なんて言ったけど、本当は、俺って必要ないんじゃないのか?



佐伯(うーわ、やっべ。超ネガティブ)


ずっとずっと前から、分かっていた。気付かない振りをしていただけで。


そばにいてやるから……ずーーっと、一緒にいてやるから


あの時本当は――「俺が」って、言いたかった。
俺がそばにいてやるから。この先ずっと、トキヤでも、トモでもてっさんでもなく、俺が。
そんな風に、言いたかった。
けれど、この気持ちこそが、彼女にとっては不要で、向けられたくない感情そのもので。

姿が見えないと探してしまう癖とか、
彼女の行動や言葉の一つ一つに、一喜一憂してしまう所とか、
笑った顔でも、怒った顔でも、救いようのない程ブサイクな顔でも、愛しく思えてしまったりとか、
それが、俺に向けられたものじゃなくても、愛しくて堪らなかったりとか――



倉橋&「――お待たせ!」

佐伯「へ? は、え? 何でお前らが一緒に戻ってくんだよ」

倉橋「実は、ちょっとプレゼントの相談しててv 俺らのお互いのバースデープレゼントは、共同で使える物にしようって言ってたから」

佐伯「……へー」

「最初は、食器乾燥機なんかいいんじゃないかなーって言ってたんだけどね」

佐伯「何か他に欲しいモンでも見つかったか?」

「うん! 自転車にしようかと思ってv」

佐伯「え? ――え、マジ!?」

「うん! マジ!」

倉橋「てっさん家に一台あれば便利だと思うんだよね。ちょっと商店街まで行く時とか」

「カゴに荷物入れたいから、折り畳みのじゃなくて、普通のになるけど……それでもいい?」

佐伯「いい、いい! 全然いい!」

倉橋「よし、じゃあ自転車売り場まで戻ろっかー。いいのがあるといいねー」

「ねー」

佐伯「あ、って事は、俺からのホワイトデーで最後か。、何がいい?」

「USBメモリ」

佐伯「ゴミ箱の更に上をいく可愛げのなさ! こいつ、次の誕生日には、大工道具とか言い出すんじゃねえの?」

倉橋「か、カッコイー……」

「もー、そんな事ばっかり言ってると、しまいには簡単には手に入らない物をねだるよ」

倉橋「例えば?」

「ランスロット起動キー型USBメモリ」

佐伯「はあ!?」

倉橋「アハハハハ!」

佐伯「そんなモンどこに売ってんだよ!?」

「今はもう販売終了してるから、オークションとかでしか手に入らないだろうなー。頑張って探してねー」

佐伯「お前はかぐや姫かー!」

「というか私は、二人とも、ランスロットが何なのか説明しなくても理解出来てる事に驚きなんだけど……。
一緒にいる内に、だんだん染まってきちゃってたんだねぇ」


倉橋「いやいやいや」

佐伯「何をそんな」

佐伯&倉橋「今頃気が付いたのー?」

「アハハハハ!」




じゃれ合いながら、一緒に過ごす時間が楽しくて、大切で。――なのに。

トキヤの隣を歩くその背中を、無理やりに引き寄せたくなる、この焦燥とか。
あの髪飾りを、毟り取ってやりたい衝動に駆られる、この劣情とか。

何食わぬ顔でに笑いかけながら、心の中で顔を覆う。




「そばにいる」と言ったのに、それを強く望めば望むほど、彼女の望まない自分になっていく。
望まれていないモノばかりで、いっぱいになっていく。


純粋に、怖いと思った。





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