第35話 温泉旅行 -前編-









「……トキヤ君」

倉橋「ちょ、ちょっと待って! もうちょっとで分かりそうな気が!」

高森「んな訳ねーだろ……」

佐伯「トキヤー、右っかわとか怪しいんじゃね?」

倉橋「え、そ、そうかな?」

「うんうん、私も怪しいと思うなー」

倉橋「ちゃんが言わないでよ! ますます分かんなくなった!」

「ホントですって。右がジョーカーだよ、トキヤ君v そろそろ引いてくれないと、、腕が痺れてきちゃったなv」

高森「キショ……いでっ」

「あーら、ごめんなさい。狭くって困るわねえ、この4人掛け」

佐伯「電車ん中で暴れんなよ、お前ら」

倉橋「ええい! 信じたからね、ちゃん! ええっと、右がジョーカーなんだから、……こっち!!」


ジョーカー


倉橋「…………のあー!?」

3人「あーあ」

高森「何食って育ったら、こんな素直な成長を遂げられるんだろうな」

佐伯「ストロベリージュースじゃね?」

倉橋「う、うそつきー! ちゃんのうそつきー!」

「えー? 嘘なんて言ってませんよー」

倉橋「言ったじゃん! 右がジョーカーだって言ったじゃん!!」

「言いましたよ、右がジョーカーだって」


「私から見て」右がジョーカー


倉橋「……うわああああん!!」

佐伯「お前って、ホンッット、こういう駆け引きじみたこと苦手だよな〜。うそがつけないっつーか」

倉橋「……」

佐伯「な、何だよ、そのジト目は」

倉橋「俺だって頑張ってるよ、一応っ」

佐伯「???」

「そろそろ着きそうだね〜。窓の外、山だらけになってきた」

高森「これだけ田舎だと、綺麗に見えそうだな、星」

「好きだね、相変わらず」

高森「好きだよ、相変わらず。俺、基本的に変わらないからね」

「……そう」

高森「うん、そう」




佐伯「着いた〜!」

高森「お〜、結構部屋広いじゃん」

倉橋「景色も綺麗だね〜」

佐伯「あ〜、マジ疲れた〜!」

倉橋「うわ、カズナ。荷物放り投げんなよ」

高森「トキヤ、茶淹れてv」

倉橋「の、飲みたいなら自分で淹れろよ……。カズナは?」

佐伯「ちょーだい」

倉橋「はいはい」

佐伯「しっかしさー、と別々の部屋にする意味はあんの? いっつも一緒の部屋で寝泊りしてんのに」

高森「拗ねるなよ」

佐伯「 す ね て ね え よ 」

倉橋「まあまあ、世間体ってものもあるんだし」

高森「一緒に旅行してる時点でアウトだと思うけどな。どういったご関係だよ」

佐伯「どうってそりゃ……オトモダチ?」

倉橋「だよねえ」

高森「よそ様はそう見てくれないっての」

倉橋「じゃあどう見られてるの?」

高森「さしづめ……女一人に手玉に取られてる哀れな三人組?」

佐伯「何て屈辱的っ!!」

「じゃあ、ホストのナンバー3から1までを携えたお嬢様で!」

高森「

佐伯「な……!? 誰がナンバーワンだ!?」

倉橋「そういう問題!?」

「私、早速お風呂行ってくるけど、三人は?」

高森「俺はもうちょっと後で行く〜」

佐伯「あ、俺も後に――」

倉橋「じゃあ俺は一緒に行こうかな。ちょっと待ってて」

「うん」

佐伯「やっぱり俺も行く」

「そう? じゃあほら、着替え持って」

倉橋「あ、カズナ。浴衣置いてあるよ、浴衣」

佐伯「お〜、持ってこ。んじゃ、ちょっと行ってくるわ」

高森「あ、俺も一緒に出るわ。ジュースとか買いたいし」

「じゃあ鍵閉めなきゃだね」

倉橋「はーい」

佐伯「お前が鍵持つのだけは阻止するからな」

倉橋「なんで!?」

高森「懇切丁寧に説明してやろうか?」

倉橋「……遠慮しときます……」




佐伯「おぉ〜んせ〜ん〜♪」

倉橋「か、カズナ、やめろって。いくら人がいないからって、木造の床でスキップはマズイってっ」

高森「床がギッシギシ言ってんな」

「恥ずかしい人だなあ」

佐伯「

「なーにー?」

佐伯「温泉初体験なカズナ君に、何かアドバイスは??」

「アドバイス……」

佐伯「何か、『とりあえずコレはやっとけ』って事とかないのか?」

「……そうですねえ」

高森「カズナ、浮かれ過ぎじゃねえ?」

倉橋「夕べ、旅行が楽しみ過ぎて寝てないんだよ。徹夜で、ナチュラルハイになってんの」

「温泉は、広いです」

佐伯「そうですね」

「なんで、とりあえず初めて入った人は、泳ぎますね」

倉橋「ちゃーん!?」

佐伯「やっぱりな! 俺もそんな事だろうと思ってたんだ!」

「思う存分、遊泳でも潜水でもしてきてください。目指せ、自己新記録。準備運動も忘れずに」

佐伯「おぉっしゃあ! 俺はやるぜー!」

倉橋「や、や、や、やめろよな!? 一緒にいて恥ずかし過ぎるだろ!? 絶対駄目だかんな!?」

佐伯「おぉ〜んせ〜ん〜♪ ぼ〜くは〜スイマ〜♪」

倉橋「ちゃん! 止めるの誰だと思ってんの! 周りの人達に謝るのが誰だと思ってんのー!」

「ウハハハハ」

倉橋「この子はー! この子はホントにもー! 自分は女風呂で知らん顔出来るからってー!」

佐伯「トキヤー、とっとと来ねーと置いてくぞーv」

倉橋「ちょっと待て! 色々いっぱい、ちょっと待てー!」

高森「……」

「行っちゃった」

高森「お前ら、いっつもあんな事してんの?」

「あんな事?」

高森「トキヤいじり」

「うん、わりと」

高森「本人が、いじられてるって気付いてないのが凄いよな」

「あれはもう一種の才能だよね。じゃ、私も行ってくるね」

高森「いってらっしゃい。のぼせんなよ」

「アハハ、うん」




〜1時間後〜




高森「あー、今日は無理。俺、今旅行中だもん。――うん。え? ――違うよ、大学のツレと。――ハハッ、うん、分かってるって。
    ――そんなに言うんだったら、今度は一緒に来る? 俺以外は誰も来ないけど」



あー、めんどくせーなー、もー。


佐伯「信じらんねえ! お前は温泉っつーモンを全然分かってねえ!!」

高森「あ、ゴメン。ツレ戻ってきたから切るわ。うん、じゃあね」

佐伯「トモォ! いますか!!」

高森「いますよ。どうした、興奮して。風呂で鼻血でも出したか」

佐伯「ちっげえよ! このバカ女がさあ!」

「馬鹿? たかだかこれぐらいの事で、馬鹿って言った?」

倉橋「もー、やめなってば二人ともー」

佐伯「見ろよ、こいつのこの格好! のやつ、温泉に来たのに浴衣着ないっつーんだぜ!? 何しにきたの、お前!」

「温泉入りにですよ」

倉橋「そりゃもっともだ」

高森「何で着ねーの?」

「浴衣苦手なんだもん。すぐ着崩れるし。夏ならともかく、冬にそんな格好してたら風邪ひいちゃうでしょ」

佐伯「温泉つったら浴衣だろ!? 浴衣に下駄でカランコロンだろ!?」

倉橋「下駄まで貸し出ししてないよ。せいぜいスリッパだよ」

「なまじ初体験なもんだから、変な理想が固まっちゃってるんだねえ」

高森「まあでも、俺もカズナに賛成かな」

「ぅえ!?」

佐伯「だよなあ!? さすがトモ! 話が分かる!」

「と、トモ? さっきも言ったけど、私、浴衣苦手で……」

高森「うん。それが?」

「あああ、眩いばかりの笑顔で見ないで……!」

高森「ただでさえ、男3:女1で野郎率高いってのに、紅一点のお前がそういう態度なのはどうかと思うなー。一人だけおいしい思いしてていいんですかー?」

「べ、別においしい思いなんて――」

高森「『してない』ってか?」

「く……っ!」


確かに、揃いも揃って無駄に見た目がいいですけども!!
トキヤ君とカズナ君の浴衣姿なんて、そりゃもう素晴らし過ぎなんですけども!!



「けど、あの――」

高森「あーもー、いいや。実力行使。連行しま〜す」

「へ!? う、うわ、首根っこ掴まないでよ! 苦しい! 苦しいです!」

倉橋「ちょ、トモ!?」

佐伯「どこ行くんだよ!?」

高森「の部屋に決まってんだろ。こっちにこいつの浴衣ねーじゃん」

佐伯「あ、ああ、そっか……い、いってらっしゃ――」


バタン!


佐伯&倉橋「……」

「〜〜ぎゃぁあ!!!」

佐伯&倉橋「!?」


「じ、自分で脱ぎます! 脱げます! おかまいなく!!」

高森「何を今更照れてんだか」

「本当に結構ですから!! あっち向いててクダサイ!」

高森「カタコトになってるし。――寒いからって、靴下履いたままとかダサい真似やめてね」

「うっうっうっ、ホント、何でこの人こんなに俺様なんだろ……」

高森「着たー?」

「着たよ! これでいいんでしょ!」

高森「失格」

「失格!?」

高森「髪はアップにしてください」

「ああもう、はいはい……」




倉橋「お、お疲れ様〜、ちゃん」

佐伯「お前、トモの言う事は聞くのなー」

「……き、基本的に、トモには逆らえないというか……何というか……」

佐伯「……なんだそれ」

「全くもう……変な汗かいちゃった。折角お風呂入ってきたのに……。また後で入り直そ」

倉橋「でも似合ってるよ、浴衣。かわいい」

「ありがとうございます。満足ですか、そこの人」

佐伯「うーーん、やっぱお前じゃ色気が足んねえな!」

「……」

倉橋「わー! ちゃん!! そのポット備品だから! 壊したら怒られるから! というか弁償だから!!」

「誰の! せいで! こんな格好してると思ってるの! この! バカズナ!! 年中欲求不満男!!」

高森「あ、なんだ。料理もう来てんじゃん。食おう食おう」

倉橋「トモー! 見ない振りしてないで助けろよ!」

高森「いーやv」

倉橋「そ、その眩いばかりの笑顔をやめろー!」




BACK TOP NEXT