第34話 買い物









佐伯「やだ! でっかいのがいいの!」

「だから、そんなにおっきいの買っても、てっちゃん家に入らないでしょう? お部屋に置けないでしょう? どうするつもりでいるの」

佐伯「片付けりゃいいじゃん! な〜、どうせ買うならでっかいのがい〜い〜」

「駄々をこねても駄・目・で・す。どんなに頑張って片付けても、すぐ散らかるんだから、あの部屋」

佐伯「俺は、コタツでのびのびと足を伸ばしてくつろぎたいんだよ。でかくないと、向こう側に飛び出るだろうが。足が。俺様の長い足が」

「ちょん切ったらどうですか」

佐伯「こんにゃろう」

「とにかく、現実問題、部屋に入らないんですから諦めてください」

佐伯「……お母さんなんかキライ!」

「お母さんだってワガママ言う子は嫌いです!」

佐伯「キライって言われたあ!」

「そ、そっちが先に言ったくせに! 何その被害者面!」

佐伯「いや、つい。あーあ、まあしょうがねえか。コタツ入ってる時、蹴っちゃったらゴメンね?」

「え、ちょ、その顔は確実に蹴るつもりでいますよね? 蹴るつもりでいますよねっ!?」

佐伯「なー、けどコタツの中で足とか当たると、何か変な気分になんねえ?」

「は? 変な気分?」

佐伯「うっかり欲情しちゃったら、責任とってね、ちゃんv」

「な、な、何で私が! というか、何故コタツで!」

佐伯「ホラ、コタツってさ、机の下は何にも見えないわけじゃん? そんな中で足が触れ合ってたりすると、妙に想像力が働くんだよなー」

「その理屈だと、カズナ君はトキヤ君の足が当たってもうっかり欲情する事に……」

佐伯「バッカ、お前。男と女の足の区別ぐらいつくっつーの。俺の足フェチ度ナメんなよ!」

「はいはい。じゃあ欲情しちゃったすぐ後に、相手が私だって事を思い出したら? そうすれば、萎えるでしょ?」


〜〜相手がお前だから困ってんだろ!!


佐伯「……女なら誰でもいいって気分だったらどうすんだよ!」

「カズナ君、そんなに切羽詰ってんの!?」

佐伯「、やっぱり考え直せ。でかいコタツを買おう。な?」

「いや、そりゃ私だってどうせなら大きいやつがいいですけど……」

佐伯「だろ!?」

「何度も言ってるけど、部屋に入らないんだってば」

佐伯「……」

「そ、そんな顔しても入らないものは入らないんだってば! 玄関でアウトだよ! 立ち往生だよ!」

佐伯「うああああ、ドラえもーーん!! スモールライトォ!!」

「いや、そんなトモみたいなこと言ってないで……。いい加減諦めなよ……」

佐伯「じゃあやっぱりちゃんが責任とってね!? カズナ君、上に超がつく健全男子なんだからね!?」

「……エロゲでも貸してあげますよ」

佐伯「お前が持ってるエロゲなんか、全部乙女向けのばっかじゃねえか!」

「18禁乙女の主人公ボイスは、なかなかエロイですよ」

佐伯「……マジですか」

「効果音とかも、そりゃもうクッチュクチュクッチュクチュと」

佐伯「……借りようかな!」

「いいですよ。主人公がメイドなのとか、主人公が極道なのとか、主人公が魔物なのとか、色々ありますけど、どれがいいですか?」

佐伯「主人公がオタクなので」

「お、オタク!? 全年齢でならあるけど、18禁では今の所ないですよ」

佐伯「何だ。そんだけ色々あるなら、オタクもいんのかと思った」

「というか、こんなに身近にオタ女がいるのに、よく主人公がオタクのエロゲをやろうと思えますよね。気色悪い」

佐伯「ハハハハハ。借りたゲームは、てっさん家でやろうな。主人公の名前、『』でプレイしてやるから」

「うわあ!」

佐伯「そんでもって、時々画面に話し掛けてやる。名前呼びながら」

「この人のエロ度を舐めてたー! セクハラ過ぎる! 貸さない! 絶対貸さないからね!」

佐伯「じゃあ買う」

「!!?」




「か、カズナ君と買い物に来ると、いつも無駄に疲れてる気がする……」

佐伯「奇遇だな。俺もだ」

「そういえば、トキヤ君、今日はどこにバイトの面接行ってるんですか?」

佐伯「さー? 喫茶店は速攻で落ちたからな〜」

「まさか面接で出されたお茶を飲もうとしてひっくり返してくるとはねえ……」

佐伯「バイト前にグラス割ってんだぜ。賭けにもなりゃしねえ」

「神がかってますよね」

佐伯「元々、器用な奴じゃねえからなあ。どこに行っても、それなりにドジやりそうだぞ、あいつ」

「落ち着いた場所とかの方が合ってますよね、きっと。あの人、いったん焦り出すと何か一つドジするまで止まれないし」

佐伯「例えば?」

「うーん、あんまりお客さんが来ないところといえば……」

佐伯「力仕事とかもダメだぞ」

「じゃあ古書店……とか?」


小窓から差し込む淡い光と、紙とホコリの匂い。
店の奥へと足を運ぶと、古ぼけたハシゴの上には、本を数冊抱えるトキヤ。
こちらに気付くのと同時に、柔らかな笑みを浮かべ――



倉橋「こんにちは。今日は何をお探しですか?」


「〜〜!!」

佐伯「おーい、ー?」

(……ヤバイ……いい……っ! 『いらっしゃいませ』じゃなくて『こんにちは』な所とか……その『こんにちは』が常連客だけに向けられてたりしたら、超萌える……!)

佐伯(この女……今自分の妄想に萌えてやがるな……)

(やっぱり服装はカーディガン!? いっそのことピンクのとか!? ――やだ! 超似合う!)

佐伯「

「え、あ、はい。ごめんなさい。ちょっと意識が」

佐伯「トキヤなら、振り返ったと同時にハシゴから落ちるぞ」

「……」

佐伯「その拍子に、本の下敷きにされてるぞ。かなりの確率で」

「……」

佐伯「……」


……それはそれでよし!


佐伯(あ、くそ、こいつ。持ち直しやがった。変なトコでポジティブだな)

(しっかしこの人、たまになんだけど、妙に的確なツッコミを入れてく、る――……)


〜♪〜♪〜♪


佐伯「お、トキヤ」

「え、あ、……噂をすれば。面接終わったのかな?」

佐伯「かもな。――あいよー?」

倉橋「もしもしー、今どこー?」

佐伯「ホームセンターで、とコタツ選んでる」

倉橋「え、まだ選んでんの? もうとっくに買っちゃったかと思ってた」

「ね、ね、面接は?」

佐伯「ああ、はいはい……トキヤ、面接どうだった?」

倉橋「そうそう! 受かったよ! 来週から来てくださいって」

佐伯「受かったってさ」

「聞こえた。――おめでとー、トキヤ君」

倉橋「あ、ちゃん? うん、ありがとー。コタツ、いいのあった?」

「カズナ君が、大きいのがいいって駄々こねてきかないの」

倉橋「ああ……それでまだ買えてないのか……」

「トキヤ君からも何とか言ってやって」

倉橋「ちゃんが言ってきかない事を、俺が言ってきくわけないじゃん」

佐伯「そもそも俺は、M男の言う事なんか聞かねえ」

倉橋「何かいきなり罵倒された!」

佐伯「おっと俺とした事が。うっかり変態さんの喜ぶような事を」

倉橋「お前、自分の意見が通らないからってヘソ曲げるのやめろよな! 八つ当たりすんなよ、もう!」

「トキヤ君、トキヤ君、バイトって結局何にしたの?」

倉橋「え? あれ、言ってなかったっけ? ファミレスだよー」

佐伯&「……」

倉橋「な、何で黙るの、二人とも!」

佐伯「いや、ファミレスってトキヤお前……大丈夫なわけ?」

「喫茶店とそう変わらないような……むしろ、ピーク時はファミレスの方が慌しいような気が……」

佐伯「よく受かったな、お前」

倉橋「うん……。今日行ったトコは、面接ん時にお茶出されなかったんだ……」

佐伯&「……」

倉橋「黙んないでよ、二人とも!」

佐伯&「ご、ごめんなさい」

「と、とにかく、おめでとうございます。今日はてっちゃん家に帰ってくるんだよね?」

倉橋「うん。夕飯の材料、何か適当に買ってこうか? 二人はコタツ担いで帰ってくるの?」

佐伯「んな訳ねえだろ。配達してもらうっつーの」

「じゃあ今から待ち合わせよっか。バイト決まったお祝いに、どこか食べに行きますか?」

倉橋「あ、お祝いしてくれるんなら、ちゃんのご飯が食べたいな」

「……」

佐伯「……トキヤ」

倉橋「え、なに?」

佐伯&「この女ったらし」

倉橋「え、……え!? ちょ、え!?」

佐伯「コタツ買ったら、次はコタツ布団だよな。今日はもう無理だし、また出直すかー」

「ですね。ミカン入れる器も買いましょう。そんでもってミカンも買いましょう」

倉橋「ちょっと、二人とも! 今何か聞き捨てならない台詞が聞こえたような気が!」

「はいはい、じゃあ後でね、トキヤ君。何が食べたいか考えといてください。頑張りますから」

倉橋「う、うん、ありがと。いやでもあのね、さっき何か――」

佐伯「じゃあなー、トキヤv」


ブチッ


佐伯「……」

「……」

佐伯「……さて」

「さーて」

佐伯「ファミレス、何日もつか賭ける?」

「応援してあげましょうよ。……一応」




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