第33話 大晦日









佐伯「大晦日ってさ〜」

倉橋「ん〜?」

佐伯「すっっっげぇ……だら〜っとしねぇ?」

倉橋&「ね〜」

「というより、今まさにだら〜ですよね〜」

倉橋「独特の空気があるよね〜」

佐伯「や〜べ、脳みそ耳から出てくんじゃねえの、これ」

「後片付けは自分でしてくださいね〜」

倉橋「ね〜」


……。


佐伯「〜」

「な〜に〜?」

佐伯「お前、年末年始は仕事って言ってなかったっけ?」

「今日だけ休みもぎ取ったの。明日からは、連日連勤……。口にするだけでも恐ろしい、連日連勤……」

倉橋「おつかれさまだねぇ」

「カズナ君はバイト入れなかったの? この時期、特別手当とか出るんでしょ?」

佐伯「んー、俺も年の最後くらいはのんびりしたくてさー」

「ですよね〜」

倉橋「アハハ〜、三人で一緒に年越ししたかったから、二人がいてくれて嬉しいよ〜」

佐伯&「……」


こ、この男、何でそんな台詞が素面で出てくるんだ……!!


佐伯「……」

「……」

倉橋「……」

佐伯「だ、黙るな、ガンバレ」

「もう駄目。限界。今ので急速に現実に引き戻された」

佐伯「それは激しく同意だけども! やめろ、言うなよ。喋んなら、別の話題にしろ」

「…………さ」


倉橋「寒いよ〜!!」


佐伯「うわ、くそ、言いやがった!!」

「言いやがりましたね……」

倉橋「寒いって無理だって誤魔化しきれる寒さじゃないって! 寒い寒い寒い寒い!!」

「だらけた空気を演出してみても、さっきから歯がガチガチ鳴ってるもんね……」

佐伯「だぁああ!! 何でこの時期に灯油が切れんだよ!! さみぃーーっ!!」

「ありえない……寒過ぎる……死んじゃう……」

倉橋「あああ、こんな事になるなら、エアコンのリモコン、さっさと修理に出しときゃよかった……」

「ストーブがあるからって、完璧に油断してたもんね……。油断大敵……。手塚部長の仰る通りです……」

倉橋「ちゃん? ちゃん、しっかり?」

佐伯「元はと言えば、てっさんがリモコン踏んづけたからじゃんかー! 灯油も切れたまんま放置しやがってー!」

倉橋「あーもー、ねえ、やっぱり買いに行く?」

佐伯&「やだ。寒い」

倉橋「だってこのままじゃ、朝方には本当に死んじゃってるかも!」

佐伯「ぜってーやだ! 今外に出た方が死ぬ! トキヤ、お前が買ってこいよ!」

倉橋「ななな、何で俺だけ! いやに決まってんじゃん! カズナの暴君! 人でなし!!」

「私、無事に年越し出来たら、Xbox360を買うんだ〜」

佐伯「ば、バカ、お前! それはいわゆる『死亡フラグ』だ!」

倉橋「そんな遠い目しないで! ほ、ほら! 俺のダウンジャケット羽織って! もういっそのこと、マフラーも巻いちゃって!」

「ううう……」

佐伯「ガンバレ〜〜、あともうちょっとで零時だからな〜」

倉橋「年越すまで起きてるって言ったじゃん! 頑張って!」

佐伯「あーでも、俺もねみー。寝てきそー」

「寒いと眠くなるって、本当だったんですね……。さあ、トキヤ君。お決まりの台詞を……」

倉橋「寝るなー! 寝たら死ぬぞー!」

「アハハハハ」

倉橋「ちゃん! ちゃーんっ!!」

佐伯「目が虚ろになってるし……」

倉橋「ダウンくらいじゃ駄目だ! 何かもっと……毛布! そうだ、毛布かぶろう!」


バサバサバサッ!


「うっわ!!?」

佐伯「のわあ!?」

倉橋「ほら、これなら暖かいでしょ? カズナ、もっと姿勢低くして! 外気が入ってくるだろ、部屋の外気が!」

佐伯「部屋の外気って、何かおかしくないか?」

「もう何でもいいよ……暖かかったら……」

佐伯「ま、少しはマシか……」

「あ、さっきの死亡フラグは冗談として、年が明けたら買おうと思ってるものがあるんですけど」

倉橋「なになに?」

「というか、さっき思いついたんだけどね。こたつ買いません?」

佐伯&倉橋「…………買う!!!」

佐伯「いいな、こたつ! そうだよ! 何か足りねえと思ったら、こたつだよ!」

倉橋「こたつに半纏着て、みかん食べながらダラダラしたい! 超したい!」

「年末までに買っておけばよかった! 馬鹿! 私達の馬鹿!!」

佐伯「ぜってー買おう。来年一番に買おう。うっわ、楽しみっ!」

倉橋「そうと決まれば、とりあえず今年を乗り切ろう。あともうちょっとだからね、ちゃん」

「うん!」

佐伯「会話で持ちこたえろ。喋ってる内は寝ない」

「カズナ君、あったまい〜v」

佐伯「こいつ、マジで相当眠いな。トキヤ、何か話題振れ、話題」

倉橋「え、俺? えーっと、こ、この一年、色々あったね?」

佐伯「ってか、俺らとって、出会って一年経ってねえんだよなあ」

「ああ、そういえば」

倉橋「ずぅっと一緒にいた所為か、そんな気があんまりしないよね」

佐伯「だな」

倉橋「カズナとちゃん、会ったばっかの頃は、喧嘩ばっかりしてたよね〜」

「……そ、そうでしたっけ」

倉橋「してたよ〜。たつ君の握手会の時とか。あ、あと、ケータイが原因で、この部屋メチャクチャにした事もあった!」

佐伯「あー、そういやあったな。そんな事も」

倉橋「そんな事!? 俺に全部片付けさしといて、そんな事って言った!?」

「一緒にてるてる坊主作ったりもしましたよね」

佐伯「ああ、あの、梅雨時の恐怖体験」

倉橋「夏には海にも行ったもんね〜。三人でテレビ映っちゃったりして♪」

佐伯「あったあった! このバカが生放送でとんでもないこと言ったんだ、そういや」

「でもそのお陰で、快適な夏を過ごせたでしょ? そのエアコン、今は残念ながら使えないけど……」

倉橋「あとはみんなでお鍋したり」

佐伯「台風でギャースカ大騒ぎしたり」

「あったね〜。あれはもう大惨事だったんだよね〜」

倉橋「まあでも、色々あったけど……楽しかったよね。三人いて」

佐伯「……そうだな」

「………………な」

佐伯&倉橋「ん?」

「……何でもない時でも、楽しかった」

佐伯&倉橋「……」

「楽しかったよ。三人いて」


どちらからともなく手を伸ばして、小さな頭をわしゃわしゃと撫でる。
彼女にとってその言葉が、軽い気持ちで出てくるものではないと分かっていたから。
長い付き合いではない。けれど、過ごした時間は、重ねた思い出は、決して少なくはなかった。

少し気恥ずかしそうに笑う彼女が、純粋に愛しく思えるほどに。










































「…………あったかいですね」

倉橋「…………うん……」

佐伯「なあ……思ったんだけどさ……」

「私も、多分おんなじこと考えてます……」



佐伯「回想も」

「死亡フラグだよね」



倉橋「……」

「あ、ちょ、トキヤ君!? トキヤくーん!?」

佐伯「お前、あんだけに『ガンバレ』っつっといて!」

倉橋「ぐ〜……」


佐伯&「ね、寝るなー! 寝たら死ぬぞーっ!!」




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