第31話 クリスマス









「メリークリスマース♪」

「はいはい、メリークリスマース!」

「プレゼント欲しい人はレジまで寄っといでー! 店の商品手に持ってねー♪」




佐伯「あー、ムカツク」

高森「素直だねー、お前は」

佐伯「店まで迎えにきたはいいけど、精神衛生上よろしくないな、これは」

高森「だろうね。けど、迎えにでもこないと、そのまま客に拉致られる可能性があるからなー」

佐伯「ぜってー阻止。何が何でも阻止」

高森「……カズナ、顔が殺気立ってる。何考えてるか当ててやろっか?」

佐伯「お前こそ、顔には出てないけど、当ててやろうか?」


佐伯&高森「寄んな触んなあっち行け」


高森「……」

佐伯「……」

高森「顔、怖いってば。お前、よくそれであいつにバレないでいられるねー」

佐伯「あのバカの前では、全力出してるもん、俺。お前はよく平然としてられるねー」

高森「慣れてるもん、俺v ――あ、がこっち見てる」

佐伯「――!!」

高森「おー、すげーすげー、一瞬で顔が変わった」

佐伯「お前なあ!!」

高森「結構頑張ってんじゃん」

佐伯「……なあ――」

高森「あ、今度はホントにこっち見てる」

佐伯「へ? ってか、うわ、あいつ。手とか振んなよ。こえーこえー、客がこえー」

高森「狙ってやったな。仕事の邪魔すんじゃねえって、目が言ってる目が」

佐伯「とか言いつつ、にこやかに手を振り返すな! 端から見ればただの仲良しバカップルじゃねえか!」

高森「……いやん?」

佐伯「その反応は間違っている!!」




(何をじゃれてるんだか……)

客@「さん? どうかした?」

「ん? どうもしないよ?」

客A「ねーねー、さっきから離れてこっち見てるあの二人組みって、さんの知り合い?」

「うんv」

客B「か、……彼氏?」

「気になる?」

客B「え!? や、あの」

「気にならない?」

客B「あ、その、き……き」

「うん?」

客B「……さん、その満面の笑顔、自重して……」

「その可愛い反応をやめてくれたらねー♪」




高森「……カズナ、しっかり」

佐伯「何話してんだか全っ然聞こえねえけど、ムカツク雰囲気だって事だけは分かる……!」

高森「そろそろバイト終了の時間だから」

佐伯「あー、早く連れて帰りてー」

高森「いつものあいつの方がいい?」

佐伯「いや、あれはあれでいい」

高森「そ、そうですか」

佐伯「何てたって、ミニスカサンタだからな! 小悪魔笑顔の、ミニスカ生足サンタさんだからな!」

高森「……お前、実はそれが見たくて来ただろ」

佐伯「ただ、群がってる野郎共が邪魔なんだ」

高森「話聞けよ。ってか、群がられてなきゃあのキャラじゃないでしょ」

佐伯「ハハッ、そりゃそうだ」

高森「って、マジでそろそろだな。なんも買わねーで帰るのもあれだし、何か買ってくか」

佐伯「このままじゃ、本気で邪魔しにきたみてぇだしなあ」

高森「んじゃ」

佐伯「って、何で真っ直ぐアダルトコーナーに向かうんだよ! 一切の迷いなしで!」

高森「いや、この店、結構掘り出しモンが多くて……お、いいの見っけ」

佐伯「ちょ、お前、マジで? ねえ? マジでエロゲ買っちゃうの? クリスマスに。ねえ、トモ君っ?」

高森「え? じゃあカズナが『買って』くれる? クリスマスプレゼントに」

佐伯「冗談じゃねえ!」

高森「何なら誕生日プレゼントでもいいよ?」

佐伯「何をどう譲歩したんだ!!」




高森「すみませーん。会計お願いしまーす」

「はーい、いら……っしゃいませー」

高森「あれ? 『メリークリスマス』は?」

「メ リ ー ク リ ス マ ス v」

高森「これお願いします」

「はい、ありがとうございます」


押しかけ妻はうさ耳巨乳少女!?××にい〜っぱい○×掛けて孕ませてください!


「……」

高森「あ、でもこのゲーム、他社でもよく似たやつが出てて、そっちはもう持ってるんですよね」

「はあ」

高森「なんで、声出し確認してもらってもいいですか?」

客達「!!?」

佐伯「そんな爽やかな顔して言う事か!?」

高森「じゃ、お願いしますv」

「はあ……こちらの、『押しかけ妻はうさ耳巨乳少女!?××にい〜っぱい○×掛けて孕ませてください!』でよろしいでしょうか?」

佐伯「こっちはこっちでサラッと言っちゃうし!」

高森「やだなあ、サンタさん。今日は、『クリスマスに、一人で淋しい思いをしている貴方の為に、ミニスカサンタが愛をお届け致しますv』な日なんでしょ?
    需要ってモンを考えてもらわないと」


「じゅ、需要……」

高森「 や り な お し 」

客@(何この人の絶対零度の視線と声! キチメガが! リアルキチメガが今目の前に!)

客A(ってか、知り合いのはずじゃあ!?)

客B(こ、こここ、こ〜わ〜い〜!)


「……」


ス〜ハ〜、ス〜ハ〜


「こ……」

高森「ん?」

「こちら、の、押しかけ妻はうさ耳巨乳少女!? ××に、い〜っぱい、……○×掛けて……かけ、掛けて……は、孕ませてください!」

高森「……」

「……」

高森「いや、『孕ませてください!』で終わっちゃ駄目でしょ。そりゃご要望とあらば、だけど」

「はぅあ! すすす、スミマセン! ちが、あの、で、よ、よろしいでしょうか!?」

高森「うん、合ってます。それください」

「しょ、少々お待ちください!」

客達(め……)


眼鏡を掛けた神がご降臨なさられた……


客@(さん超可愛い……!)

客A(めったに見られない恥じらいキャラ……! レアすぐる……!)


神よ……!!(眼鏡の……!!)


「……帰ったら覚えときなよっ」

高森「……いやん?」

「馬鹿っ!」




一ノ瀬「いや、どんだけドSなんですか、あなたは!」

「ホントだよねぇ。もっと言ってやって」

高森「ハハハ、馬鹿だなー、お前ら。例えばだ。
    このてっさん家にドカッと鎮座しているマッサージチェアに、『お前はどんだけ黒革張りでマッサージ上手なんだ』といくら指摘した所で、それはただの事実だ。痛くも痒くもない。
    よって、俺も痛くも痒くもない!」


倉橋「テンション高っ!」

佐伯「つまり『ドS』はただの事実であると!」

「機嫌悪いなあ……」

坂田「ハッハッハ、カズナといい勝負じゃないか」

佐伯「いや〜、さすがの俺もあそこまでじゃ……」

「というより、タイプの違うサドなんですよね。カズナ君とトモは」

一ノ瀬「どういうこと?」

「カズナ君は、確かにSっ気あるけど、その行為をちらつかせて、相手の『反応』を楽しむタイプなの」

一ノ瀬「……? 例えば?」

「ここにスパイシーなチキンがあります」

一ノ瀬「ほう」

「ただでさえ辛いチキンに、お好みで味を調節する為に付けられた、スパイシーな粉をふりかけます」

一ノ瀬「ほうほう」

「はい、トキヤ君、あーんv」

倉橋「えええええ!?」

「あーんv」

倉橋「ちょ、やだやだ! 無理だって! 真っ赤じゃん! 粉ふりかけ過ぎて真っ赤になってるじゃん!」

「あーーーんv」

倉橋「む、無理です、ギブです、許して! ゆ〜る〜し〜て〜!」

「という反応を楽しむのがカズナ君。んでもって、はいトモ、バトンタッチ」

高森「あいよー」

倉橋「も、が……!? んぐぐぐぐぐっ!!」

高森「ホラ、もっと大きく口開けないと、奥まで入んないよー? それとも……舌先で味わいたいの?」

倉橋「……!! 〜〜……!!」

高森「あーあー、涙目になっちゃって。かわいそーに」

「反応だけじゃなくて、実際に行動にまで移さないと満足出来ないのが、トモ」

一ノ瀬「何て恐ろしい……!」

「まあ、相手にもよりけりだと思うけどね。実際、トキヤ君という『ドM』相手になら、カズナ君もとことん苛め抜いちゃってるし」

佐伯「俺とトモの違いといえば、俺は基本的にMしかイジメねーけど、トモは自分以外の全員にサドっ気全開だよな」

高森「こんなに優しくしてやってんのに……」

一ノ瀬「トキヤ先輩の口に、チキン突っ込んだまま言う台詞じゃないですよ! そろそろ離してあげてください!」

坂田「SかMかで言えば、マルはどっちなんだ?」

一ノ瀬「僕!? 僕はいたってノーマルですよ!」

佐伯「あー、何かお前はそれっぽいな」

高森「うん。何か普通っぽい」

一ノ瀬「その、さも『面白味がない』って言いたげな顔、やめてもらえます?」

倉橋「だ、……誰か、もうちょっと俺のこと気にしてくれてもいいんじゃない……?」

「あ、ああ、ごめん、トキヤ君。お水飲む? それとも、氷舐める?」

倉橋「お水……」

「はいはい、ちょっと待っててね」

一ノ瀬「大体ですね、そんな、人間をSかMかに区別しようとすること自体が間違いなんですよ。もう」

佐伯「おー、いいこと言った! だよなあ! 俺もたまには、綺麗なお姉様に言われてーもんv 『ホント、堪え性のない男』とかって。ちょっと蔑んだ目で」

一ノ瀬「あんた変態だあ!」

坂田「別に今に始まった事じゃないよなあ」

佐伯「そういうてっさんはどっちなんスか? やっぱS?」

坂田「バッカ、俺は尽くすよ? 尽くすタイプよ? そりゃもう全力で尽くしちゃうよ?」

一ノ瀬「えー、想像出来ないなー」

坂田「ハッハッハ、そんなこと言ってると、膝の上に乗っけてケーキ『あーん』するぞ、マル。太腿の内側撫でさすりながら」

一ノ瀬「すんませんっした!!」

「はい、トキヤ君。お水どうぞ」

倉橋「ありがとー」

「大丈夫?」

倉橋「舌痛い……」

「べー?」

倉橋「べー」

「うわ、赤い。やっぱり、氷も舐めた方がいいかもね」

倉橋「そうする」

「……ゴメンね?」

倉橋「……ちゃんも、大概Sだと思うんだよね」

「え!?」

倉橋「フォローの入れ方が上手いから、いつも騙される……。ごまかされてる……絶対ズルイ……」

「と、トキヤ君? 怒ってるの? 拗ねてるの?」

倉橋「りょ・う・ほ・うー」

「まねっこー」

佐伯「って、SかMか微妙だよなー。どっちにも取れるっつーか」

高森「職業柄、無意識の内に相手に合わせちゃうトコあるからね」

一ノ瀬「というか、僕たち何で聖なる夜に、SM談議を繰り広げちゃってるんですか!? おかしい! こんなのおかしい!」

高森「お。ノーマルな人から、まともなツッコミが入った」

「確かにその通りだ……」

佐伯「だってー、聖なる夜っつったって、野郎ばっかじゃーん。色気がなーい。盛り上がりに欠けるぅー」

「サラッと私を『野郎』で換算しないでくれる?」

坂田「メリィイイ!! クリスマーーッス!!」

倉橋「何その唐突な盛り上がり方!」

高森「あ、いつの間にか、てっさんの周りに酒の空き瓶が」

一ノ瀬「尋常じゃないほど転がってる! ちょ、ちゃん、避難、避難」

「う、うん」

倉橋「俺を置いていかないでぇ!!」

佐伯「平和って、誰かの犠牲の上に成り立ってんだよな……」

高森「トキヤー、助けてやろうかー?」

倉橋「とか言いながら、スパイシーチキンをチラつかせんなーっ!!」




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