第30話 旅行計画









「カズナ君……」

佐伯「……」


ガシッと手を取り合い、見つめ合う。


「私、信じてるから……!」

佐伯「……!」

「だから、カズナ君も信じて……! 『自分』じゃなくて、カズナ君を信じてる私を信じて!」

佐伯「任しとけ! 俺を誰だと思ってやがる!!!」

高森「いいからさっさと回せよ。さみーんだよ、俺は」

佐伯&「うるさい! 気が散る!!」

高森「あー、はいはい。スミマセンねー」

倉橋「あ、いたいた」

高森「トキヤ」

倉橋「もー、何で待ち合わせ場所にいないんだよ。探しちゃったじゃん」

高森「文句ならあいつらに言えよ」

倉橋「ん? 何してんの、あの二人。ちゃんとしゃぶしゃぶの材料は買えたの?」

高森「その材料を買ったらさ、福引の券がついてきたんだよ。で、特賞が温泉旅行だっつーから、今超真剣にチャレンジしてるトコ」

倉橋「ああ、そうなんだ。俺も貰ったよ、酒買った時に」

高森「へー。んじゃ、お前も回してくれば? ってかあいつら、『温泉旅行をペアでご招待!』なんか当てて、どうするつもりなんだ?」

倉橋「ペア……。それ多分、『温泉旅行』しか目に入ってないんだよ……」

高森「アホな奴らだなあ……」

倉橋「あ、トモもやる? 俺、二枚貰ったから」

高森「マジ? サンキュー」

倉橋「何狙い? 温泉?」

高森「んー、ここはやっぱアレでしょ」

倉橋「『あれ』?」

女性「すみませーん。1回分お願いしまーす」


カランカラーン!!


男性「おめでとうございます! おめでとうございます! 出ました、特賞! 温泉旅行ー!」

女性「きゃー!!」

4人「あ……」





佐伯「温泉……」

「温泉……」

高森「お前らがさっさとやんねーからだろ。いい加減テンション戻せよ」

倉橋「ほ、ホラ二人とも、元気出して! せっかくトモが二等賞のカニ当ててくれたんだからさ!」

高森「そーそー。冬はやっぱカニでしょーv 感謝しろよ? 崇め奉れ」

佐伯「あー、行きたかったなー! 温泉!」

「ねー!」

高森「聞いてねえな、こいつら」

倉橋「そういやカズナ、温泉行った事ないんだもんね」

「うそ!?」

佐伯「マジ。珍しいってよく言われるんだよなー」

「そりゃそうですよ。日本人で温泉に行った事がないだなんて……」

佐伯「だから行きたかったんだけどな〜」

倉橋「じゃあ、みんなで行こっか。来月辺りにでも」


……。


佐伯「……行くか!!」

「え、うそ、ホントに?」

高森「カズナが『行く』っつったら行くだろうな〜」

佐伯「、休み取れそうか?」

「ね、年末年始は稼ぎ時だから無理だけど、末ぐらいになら何とか」

倉橋「トモは?」

高森「は? 俺も?」

倉橋「人数多い方が楽しいじゃん!」

高森「いや、俺は大丈夫だけどさ。、お前は大丈夫なわけ? さすがに、男ばっかで旅行は、親にNGくらうんじゃねーの?」

倉橋「あ、そっか!」

佐伯「行けねえの!?」

「うーん、うちの親も大概そこら辺緩いんですけどね〜。彼氏と旅行はOKだし。私も成人してるし。まあ、正直に話してみます」

高森「野郎共と旅行に行ってきますって?」

「『1月の末に、温泉行ってくるね〜。トモちゃんやカズナちゃん達と〜』」

高森「うわ、ずっりー、こいつ!」

佐伯「さらりと俺らを女の子にしやがった!」

「嘘は言ってないでしょ? トモちゃんv カズナちゃんv」

佐伯「ま、まあ、とりあえず大丈夫そうだな! んじゃ、決定って事で♪」

倉橋「温泉って、いくらぐらい掛かるモンなのかな〜」

「うーん、そんなに有名な所じゃなかったら、そこそこの値段でいけると思うんですけど……」

倉橋「俺もバイトしよっかな、カズナみたいに」

佐伯「トキヤがバイト〜?」

「ちなみに、何をやる気でいるんですか?」

倉橋「え、えーっと、ウェイター、とか?」

高森「皿を割るな、確実に」

佐伯「一日で何枚割るか賭けるか?」

高森「何日でクビになるかにしねぇ?」

(でもウェイターの格好自体は似合いそう……)

倉橋「だ、駄目? じゃあ、えっと、マックとか!」



高森「すいませーん、てりやきバーガーのセットとナゲットくださーい」

倉橋「お、お飲み物は何に致しますかー?」

高森「コーラで」

倉橋「ご一緒にポテトはいかがですかー?」

高森「いや、最初からついてるでしょ。セットなんだから」

倉橋「あ」

高森「それと、バーガーのピクルス抜いてください。ナゲットのソースって、バーベキューとマスタード、両方つけてもらう事って出来るの?」

倉橋「え、あ、ちょ」

高森「あ、それから、前にテイクアウト頼んだ時、アップルパイ入ってなかったんだけど、今それ貰う事とかって出来る? レシートとかないんだけど」

倉橋「う、あの、えと、あの……!」



「トモ、後半がクレーマーと化してるから」

佐伯「昼時のラッシュとか、こいつパニック起こして死ぬんじゃねぇの?」

高森「ってか、ファーストフード店って男はほとんど裏で作ってる方だよな」

倉橋「じゃあ何でやらせたんだよ!!」

佐伯「ウェイターならさ、ほら、今『何とか喫茶』とか流行ってんじゃん」

高森「ああ、メイド喫茶――は無理だから、執事喫茶とかか」



倉橋「おかえりなさいませ、お嬢様」

倉橋「お嬢様、本日は何を召し上がられますか?」

倉橋「お嬢様、少々失礼致します。ああ、じっとして……。髪に何かついておいでです。――まったく、仕方のない人ですね」




「却 下 で す」

倉橋「え、な、何で?」


そんな事になったら、温泉行く前に私が破産する!!


高森「、肉これで終わり?」

「あ、ううん。まだあるよ。ちょっと待っててー」

佐伯「あ、トキヤ。あと、金貯めて免許取れ、免許」

倉橋「え? 何で?」

佐伯「どっか出掛けたりすんのに、一人だけ運転しないのずりぃだろ。今度の旅行までには無理だとしても、一応取っとけよ、免許くらい」

倉橋「取ろう取ろうとは思ってんだけどさ、なかなかこう、踏ん切りがさ……お金とか時間の都合で」

高森「お前、今、年上のお姉さんに惚れてんだって?」

倉橋「へ!? な、なに、いきなり!」

高森「じゃあ取っとけ。絶対損はしないから」

倉橋「そ、そうなの?」

高森「誘う口実にはもってこいだぞ。『俺、実は免許取ったんですよ。よかったら今度――』って感じで。お前、何かキッカケがないと行動に移せないタイプだろ」

佐伯「ああ、だな。誕生日とか、学園祭とか」

佐伯&高森「このヘタレめ」

倉橋「……お前ら、二人揃うとドS度でも増すの!? ちゃん! ちゃん早く戻ってきて! こいつらと三人っきりにしないで!!」

「は、はいはい、どうしたんですか? トモ、野菜の方は足りてた?」

高森「うん、いらない」

「いや、『いる』『いらない』を訊いたんじゃなくて……まあ、いいか」

佐伯「あ、。全然話変わるけど、お前、クリスマス何してる?」

「え?」

佐伯「もう俺ら学習したからな」

倉橋「誕生日みたいな事になんないように、ちゃんと訊いとこうと思ってv」

「いや、仕事ですよ。イベント日ですもん」

佐伯&倉橋「えー!?」

「『クリスマスに、一人で淋しい思いをしている貴方の為に、ミニスカサンタが愛をお届け致しますv』」

高森「相変わらずだなあ、あの店」

佐伯「淋しい思いなら俺らもしてるっつーの! ってか、ミニスカ!? ミニスカサンタ!?」


超 見 た い ! !


佐伯「そんな醜い足さらすの!? お前!」

「失礼な! そこまでひどくないですよ!」

佐伯「自覚ねえのか! 重症だな!」

「きぃい!」

高森「生足?」

「おうともよ!」

佐伯「な、ま……!?」


超 ズ ル イ ! !
なんなのそれ! 超ズルイ!!



倉橋「仕事、またハロウィンの時みたく、遅くなりそうなの? やっぱり」

「あ、はい、そうですね。多分」

佐伯「次の日は? 仕事か?」

「ううん。次の日は休みv」

佐伯「んじゃ、やっぱりこっち帰ってこいよ。メシは先食ってるけど、みんなでワイワイやろーぜ♪」

倉橋「うん、おいでよ。ね?」

「……うん」

佐伯「ミニスカサンタのまま来い、ミニスカサンタのまま」

「いやですよ! どんな羞恥プレイだ!」

倉橋「トモも来るだろ? 24日」

高森「んー? 一応空けといてある。去年も、カズナが直前になってから言ってきたからさ」

佐伯「お前はどうせ、きっれ〜なお姉様方から引っ張りだこなんだろ! 来んな来んな!」

「駄目だよ、カズナ君。トモ、基本いじめっ子なんだから、『来るな』って言われたら来るに決まってるよ……」

高森「いーや、別に? 来るなって言うなら来ないけどさ。あ、

「ん?」

高森「20日って暇?」

「20日? 何曜日だっけ?」

高森「確か土曜」

「あ、うん。空いてる。休みだけど?」

高森「んじゃ、付き合ってv」

「別にいいけど……何であんたは、誕生日に元かのを誘ったりするの……」

高森「誰も祝ってくんねーんだもん」

「絶対嘘でしょ」

高森「何か寄越せ」

「も、もっと他に言い方はないの!?」

高森「じゃあ……『何もいらないよ。一緒にいてくれるだけで嬉しいから』」

「普通に怖い……!」

高森「注文の多い奴だな。ペロッと食っちまうぞ」

「食われるのは注文をつけられた方だよ!」

佐伯「そういや、20日ってトモの誕生日だったけかー」

倉橋「そうだったね。毎年、大抵女の人と過ごしてるから、すっかり忘れてた」

佐伯「んじゃ、クリスマスに一緒に祝えばいいんじゃね? 日も近い事だし」

高森「……ハハッ」

佐伯「な? そうしろよ? 賑やかになりそうだなー♪」

高森「カズナく〜ん、テーブルの下で、俺の足の上に何か乗っかってるんだけどな〜?」

佐伯「ごめんなさいねぇ、足 が 長 く っ て」



































あとになってから、ふと思った。
トモは「20日」としか言わなかったのに、何であいつは、すぐに「誕生日」だって思い当たったんだろう?
記念日の類には疎くて、現在進行形で付き合っている男の誕生日も、覚えていられないあいつが。

随分前に別れた元彼の誕生日を、今もまだ覚えているのは、なんで?




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