第27話 学園祭 -前編-









佐伯「ひーまーだー」

一ノ瀬「お客さん、来ませんねえ」

佐伯「絶対品揃えのせいだって! そんでもってこれらをセレクトしたてっさんのせいだって!」

一ノ瀬「何か……コアなものばっかりですもんね……」

佐伯「だろ!? どこの物好きが、フリマ来て鎧なんか買うんだよ! あの人の頭ん中は、一体どうなってんだ!?」

一ノ瀬「それにしても、てっさん先輩、よく出品する気になりましたよね。こういうの、ものすごく大事にしてる人なのに……」

佐伯「ああ……ちょっと前に台風あっただろ? あの時に、大分コレクションが濡れたんだよ。部屋ん中もえらい惨状になって」

一ノ瀬「ひええ……」

佐伯「で、さすがのてっさんも数を減らす気になったらしいぞ」

一ノ瀬「そうだったんですか……。じゃあ、あの部屋も少しは広くなったんですか?」

佐伯「それがさあ! そう思うじゃん? 普通はこれだけの量を排出したんだから、その分広くなって当たり前じゃん?」

一ノ瀬「排出って……。え、広くならなかったんですか?」

佐伯「何でか知らねーけど、まったく」

一ノ瀬「異次元か、あの人の部屋は……」

佐伯「それ、も言ってた」

一ノ瀬「そういえば、そろそろ着く頃じゃないですか? ちゃん」

佐伯「ああ、もうそんな時間か」

一ノ瀬「じゃあ、門のトコまで迎えに行ってきます」

佐伯「え? いや、いいって。俺が行ってくる」

一ノ瀬「ええ!?」

佐伯「うっわ!? え、なんだよ!?」

一ノ瀬「どうしたんですか、カズナ先輩! こういう時、真っ先にパシらせるじゃないですか!」

佐伯「え、いや、あの」

一ノ瀬「何かあったんですか? 大丈夫ですか? 熱は? 吐き気は?」

佐伯「いや、あの、マル君?」

一ノ瀬「は! もしかして、ちゃんと合流して、そのまま戻ってこないつもりとか!? 僕にこの場を押し付ける気ですか!?」

佐伯「ちっげーよ、バカ! 何でそんな話になんだよ! もういいよ! お望み通り、パシらせてやるよ! オラ、とっとと行ってこい!」

一ノ瀬「うわ、いたい! 叩かなくったって行きますよ、もう!」

佐伯「うるせー、バーカ! は・し・れ、バーッカ!!」

一ノ瀬「バカバカ言わないでくださいー! いってきまーっす!」

佐伯「……」


………………俺が行きたかったのに!




一ノ瀬「ちゃん!」

「マル君! 久し振り!」

一ノ瀬「ひさしぶり〜。鍋以来だね〜。迷わず来れた?」

「うん、何とか。人、凄いね。私、大学の学園祭とかって初めてで」

一ノ瀬「あ、そうなんだ。中入るともっとすごいよ。波にさらわれないでね」

「アハハ、さらわれたら助けてね」

一ノ瀬「アハハハハ」

男@「あっれ〜? マルじゃん。お前、佐伯先輩達とフリマやるんじゃなかったんだっけ?」

男A「ってかウソ! 女連れ!?」

女@「彼女!? 彼女!?」

「〜〜!?」

一ノ瀬「ちょ、お前ら、群がるな! ちゃん、ビックリしてるだろ!」

「………………こ、こんにちは」

男@「こーんにーちは!」

女@「はじめましてー!」

男A「それじゃ、改めて……」

三人「彼女ですかー!?」

一ノ瀬「だ〜か〜ら〜! お前らはまったく!! 違うって。この子は、トモ先輩のカノジョさん」

四人「え〜!!?」

男A「高森先輩の!? あの!?」

女@「見かける度に、違う女の人と歩いてる、あの!?」

男@「あの人、特定の彼女いたんだ! 俺、あの人の周りだけ、一夫多妻制が許されてるのかと思ってた!」

一ノ瀬「いや、そんな訳ないだろ。どこの石油王だよ」

(マル君はここでもツッコミ役なんだなあ……)

女@「……あれ?」

一ノ瀬「ん? どうした?」

女@「……さっき、私達が驚いた時に、この子も一緒に驚いてなかった?」

一ノ瀬「…………あれ?」

「……」

一ノ瀬「えっと、ちゃん?」

「な、なあに?」

一ノ瀬「彼女、なんだよね? トモ先輩の」

「ちなみに、それ言ったのって、トモ?」

一ノ瀬「うん」

「……えーっと」


トモ! 状況が全然分かんない! 話、合わせといた方がいいの!?


「……う、うん」

一ノ瀬「だよね! ああ、ビックリした。って、なんでさっきちゃんまで驚いてたの?」

「トモ、あんまりそういうの人に言ったりしないから。マル君も、当然知らないんだと思ってたの」

一ノ瀬「あー。そういえば、珍しいかも」

男@「俺も、高森先輩が『こいつ彼女』とか公言してるの、聞いた事ない」

男A「あれ? でも高森先輩、さっき女の人と歩いてたような……。2コ上の先輩で、ホラ、去年のミス――」

女@「!? 馬鹿! やめなよ、彼女さんの前で!!」

男A「あ、あ! ごめん! ごめんな!?」

「あ、いえ、そんな」

一ノ瀬「何やってるんだ、あの人……!! ちゃん放ったらかして……!!」

(ひえええええ)


ト〜モ〜!!


「あの、大丈夫だから……少し前に、別れてるし……」

四人「え!?」

一ノ瀬「ほ、ホントに? ちゃん」

「うん、本当」


今度はね


「ごめんなさい、なかなか言い出せなくて……。特に、その……マル君はトモの後輩にあたるわけだし言い難くて……。黙っててゴメンね?」

一ノ瀬「ううん! こっちこそごめん! 知らなかったんだ、ホントに! ごめん!」

女@「私達もごめんなさい。来てそうそう嫌な思いさせちゃって……」

男A「俺が一番ごめんなさいだ……ごめん……」

「あの、ホントに気にしないで……。別れたって言っても、そんな、嫌な別れ方じゃないの。
    今でもこうして遊びに来れるぐらいだから。お互いの態度も、前と全然変わってないし……」


四人「ごめんなさい……」

「こ、こちらこそ……」


あんの男……! 後で一発殴ってやる……!




佐伯「こーんなトコにいた。マル、お前、合流出来たんなら、とっとと戻ってこいっての」

一ノ瀬「あ、カズナ先輩。すみませ――」

三人「佐伯先輩だー!」

佐伯「のわー!?」

男@「佐伯先輩、佐伯先輩! 焼き鳥買ってって!」

男A「フリマどうっすか? どうせ売れてないんでしょー?」

女@「佐伯先輩、今年は後夜祭で歌わないんですかー!?」

佐伯「だー! うるせー! 一人ずつ喋れ、一人ずつ! 俺は福沢諭吉か!」

一ノ瀬「先輩、それを言うなら聖徳太子です……」

「す、凄いパワーだなあ……」

佐伯「何だよ、お前らんトコ、今年は焼き鳥屋か?」

女@「そうなんですよ〜、うちの他にも三店も出してるから、もう売れなくて売れなくて」

男A「買ってってー、お願い先輩、買ってってー」

三人「買ってってー」

佐伯「な、泣くなよ、おい。買ってってやるから、焼き鳥くらい……」

女@「はーい、焼き鳥10パックお買い上げぇ!!」

男@「あざーっす!!」

佐伯「無茶言うな! 普通に1パックだ、1パック!」

男A「焼き鳥1パック、二千円になりますv」

佐伯「地味なボッタクリバーだな、おい!!」

女@「好きです、先輩! もう1パック買って!」

佐伯「お前、来る客全員にそれ言う気か!?」

女@「だって、このままじゃ赤字確定で……!」

男@「俺も好きです! 好きだー!」

男A「俺も大好きぃいいいい!!」

佐伯「ひぃい! すがりつくな、気色悪い!!」

「カズナ君、あの、私も買うから……」

女@「本当!?」

「うん。焼き鳥好きだし」

男A「ありがとー! ありがとー! いい子だー! 先輩、この子、いい子だー!」

佐伯「あー、はいはい。そーですねー。そろそろ俺の腕にぶら下がるのやめてもらえませんかねー」

「えっと、じゃあ2パックください。はい、千円」

女@「はい! 400円のお釣りになります! あの、本当にありがとう」

「ううん。いただきますv」

佐伯「お前、二つも買ってどうすんの?」

「トキヤ君も食べるかなと思って。てっちゃんやトモとも合流するんでしょ?」

佐伯「ああ、そっか。んじゃ、俺にも一つな」

男@「はーい! お買い上げ、ありがとうございまっす!」

男A「ありがとうございまーっす!」

女@「あ、佐伯先輩。マル、少し借りてもいいですか?」

佐伯「あ? 何で? ――ウマイな、これ」

「ホント。おいし〜」

女@「ありがとうございますv 人手、全然足りないんですよね。マル、顔広いし、宣伝してきてもらおうかと思って」

佐伯「ああ、いいぜ。持ってけば?」

一ノ瀬「当事者なのにこの疎外感!! 僕! 僕の意思は!?」

佐伯「ハッハッハ、マルく〜ん? 先輩の言う事には?」

一ノ瀬「…………絶対服従」

佐伯「がんばってね〜んv」

一ノ瀬「はいはい、分かりましたよ! ――じゃあ、またね、ちゃん。一人であの人達の相手は大変だと思うけど……」

「ううん、大丈夫。慣れてるから。マル君も頑張って」

一ノ瀬「うん、まあ、一日あの先輩達にこき使われる事を考えたら、あいつらの手伝いしてた方が――」

「マシ?」

男@「マルー! 今日中にこの箱全部捌かなきゃなんねーんだって! 頼んだぞー!」

一ノ瀬「…………そうでもないかな」

「……健闘を祈ります」

一ノ瀬「俺も自分で祈っとく……」




佐伯「あー、どっと疲れた」

「人気者だねえ」

佐伯「たかってるだけだっての、あいつらは」

「満更でもないくせに。可愛がってるんでしょ?」

佐伯「そりゃ可愛いけどさ。お前と違って素直だし」

「……大きなお世話ですよ」

佐伯「なーんでこんなトコに来てまで猫かぶるかねー。別に、店の客じゃねーんだから、普段のお前でいいんじゃねえの?」

「そ、れは……そうなんですけど」

佐伯「『けど』?」

「……カズナ君や、トキヤ君の友達じゃないですか、マル君は。それに、さっきの人達だって」

佐伯「は?」

「だったら、『嫌な子だな』とか、思われたくないじゃないですか。やっぱり」


気まずそうに視線を逸らしたを、ポカンと見つめた後、
首が180度回転しそうな勢いでそっぽを向き、拳を握り締める。

この女!
俺に萌え死にしろっつってんのか!!



佐伯「………………

「うん?」

佐伯「……や、焼き鳥がウマイです」

「はあ? そ、そうですね。美味しいね」


〜〜ダメだ!
こいつなら、もっと上手く誤魔化すだろうに!



「……そういえば、フリマは今誰が留守番してるの? てっちゃん?」

佐伯「いや、てっさんは俺らに店任したきり、全然戻ってこねー。今店番してんのはトキヤとトモ」

「ああ、そうなんだ。少しは売れましたか?」

佐伯「今のトコ、売り上げゼロ」

「……今日の打ち上げは、期待出来そうにないなあ」

佐伯「すんな、そんなモン。んな事より俺は、あの鎧をまた持って帰らなきゃなんねー事の方がよっぽど気がかりだ」

「ああ、あれかあ……」

佐伯「大荷物どころの話じゃねーぞ、あれ……」

「着て帰れば?」

佐伯「わー、ちゃん賢ーい! て、バ・カ!」

「アハハハハ!」




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