第24話 台風









「…………うわぉう」




「トキヤ君、トキヤ君、起きて」

倉橋「……うーん…」

「トーキーヤー君、あの、起きて、起き――」


何だこの柔らか猫っ毛は。
くそう、撫でくりまわしたい。



「トキヤ君ってば! 起きて!」

倉橋「……うー」

「〜〜起きなさい!!」

倉橋「うっわ!? は、はい! かけそばは大盛です!!」

「か、かけそば!?」

倉橋「え? かけそば?」

「……」

倉橋「かけそばがどうかしたの?」

「私に訊かれても! と、とにかく、外見てください、外。次はカズナ君起こさなきゃ!」

倉橋「外……?」

「起きろー! カズナくーん! お前の母ちゃん何人だー!?」

佐伯「うるせー! 何なんだ朝っぱらか――」

倉橋「うっわぉう!!」

佐伯「な、何だ!? どうしたトキヤ!!」

倉橋「外! 外! ってか、音! 音すっごい! 気付けよ、俺ら!」

佐伯「……音?」


ドドドドドドドド


佐伯「な、何だこれ!?」

「土砂降りで物凄い事になってるんですよ! て、テレビテレビ!」

佐伯「そ、そうだな! 天気予報!」


昨日から日本に接近していた台風ですが、深夜に進路を変更し――


倉橋「直撃コーース!!」

「いやー!」

佐伯「俺今日バイト!!」

倉橋「行ける訳ないだろ!? それより、この家壊れない!? ねえ、壊れない!?」

「ちょ、おち、落ち着きましょう。まず、えっと、私は家に電話!」

佐伯「俺はバイト先!」

倉橋「お、俺は!?」

佐伯「知るか! 踊ってろ!」

倉橋「ひどいー!」

「あ、もしもし、お母さん? 家、大丈夫? ゴメンね、電話遅くなって――」

佐伯「もしもし、お疲れ様です! 佐伯ですけど――」

倉橋「うわーーん! あーわーてーないでー全部上手くいくよー!」

「何歌って踊ってんですか、トキヤ君! それより、この台風どれくらいの速度で移動――」


ブチッ


三人「!!!」


佐伯「て、ててて、停電ー!?」

倉橋「ど、どうしよう!?」

「だ、大丈夫ですよ。夜じゃないんですし、別に電気が点かないくらい……」

倉橋「そっか、そうだね……。何かもう駄目だ……パニくっちゃって……」

佐伯「寝起きでこのテンションはキツイ……」

「私も少し疲れました……」

倉橋「とりあえず……どうする?」

佐伯「どうするったって、何すりゃいいんだ?」

「まあここは二階ですし、浸水の心配は――」


バーン!!


三人「キャー!?」


佐伯「な、何事だ!?」

倉橋「窓、窓!! どこからともなく飛んできたトタン屋根が窓に!!」

「こここ、こわっ!! って、あ! よく見たら、この家のトタン屋根も吹っ飛ばされてる! ベランダの!」

倉橋「ホントだ! いつの間にかなくなっちゃってる!」

佐伯「そういや、夕べはてっさんの洗濯物干しっぱなしじゃなかったか!?」

「てっちゃんのパンツがどっか飛んでったー!」

倉橋「うわー! ご近所迷惑ー!」

佐伯「言ってる場合か! オラ、雨戸閉めっぞ、トキヤ! 手伝え!」

倉橋「う、うん!」


ポタッ


「……? ――っ!!」

佐伯「? どうし――」

「雨漏りー!」

佐伯&倉橋「なにぃ!?」

佐伯「バケツ持ってこい、! てっさんが帰ってきた時、コレクションの一つでも濡れちまってたら、俺ら全員殺されっぞ!」

倉橋「俺達何にも悪くないのにー!」

「バケツなんて見た事ないよ、この家! ええと、お鍋お鍋!」

佐伯「な・ん・だ・こ・の、雨戸はー! 閉まんねー!」

倉橋「何年使ってないんだよ! ふんぎぎぎぎ!!」

佐伯「早く窓閉めねーと、部屋ん中がえらい事に…!」


がっしゃーん!!


「わーーっ!!」

佐伯「!!?」

「だ、台所の窓割れたー!」

倉橋「えー!!」

佐伯「大丈夫か!? ケガは!?」

「だ、大丈夫です。それより、窓何とかしないと――」

佐伯「アホか! お前が先だ! どっか見えないトコとか切ってねえか!? 顔は!? 指は!? 足は!?」

「ちょ、ちょ、ちょ、カズナく――」

佐伯「おら、くるっと回ってターン!!」

「た、ターン! って、回ってとターンは同じ意味なんじゃ――」

佐伯「痛いトコは!?」

「カズナ君がさっきから鷲掴みにしてる手首です!」

佐伯「よし!!」

「何が『よし』か!」

佐伯「とりあえず、お前こっちの部屋来てろ。――トキヤ! そっちの雨戸何とかしたら、こっち手伝え!」

倉橋「了解! ちゃん、大丈夫だった?」

「平気です。雨漏り、まだまだ酷くなりそうなんで、器集めときますね」

倉橋「ありがと! よし、閉まった! カズナ、そっちどう!?」

佐伯「どうもこうもねえよ! 窓全壊だっつーの! 何か塞ぐもんねえ!?」

倉橋「塞ぐもんったって……」

三人「……」

「……お、おあつらえ向きに、看板ならありますけど……。てっちゃんがオークションで落とした、らきすたの……」

倉橋「さ、さすがにこれ使ったら怒るどころの騒ぎじゃないんじゃ……」

佐伯「〜〜背に腹は変えられねえ! トキヤ、それ持ってこい!」

倉橋「えええええ!!」

「うわあああ、ごめんてっちゃん! でも非常事態だし!」

倉橋「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

佐伯「ってか俺ら、こんな必死になってんだから、感謝されてもいいくらいなんじゃねえの!? ああもうびしょ濡れだっつーの、つべてー!」

「ああ! カズナ君! せめて絵が描いてある方を内側に塞いであげて!」

佐伯「めんどくせー! ガムテ持ってこい、ガムテ!」

「は、はい! って、あ!」

倉橋「あ!」

佐伯「な、なんだよ?」

「雨戸も閉まってて、停電までしてるから……」

倉橋&「真っ暗で何も見えない……」

佐伯「ケータイの明かりとか――」

倉橋「そのケータイがどこにあるのか見えないんだってば!」

佐伯「知るか! 何とかしろ! 重いんだよ、こっちは!!」

「い、いたっ! 痛い! 何か蹴飛ばした!」

倉橋「だ、大丈夫? ちゃ――いた! って、うわ!?」

「トキヤ君!? うわあ、冷たい!」

倉橋「ごごご、ごめん……雨漏り受けてたお鍋ひっくり返したみたい……」

「ひええ! 大惨事!」

倉橋「ご、ゴメンね〜! あ、いたいたちゃん。よっこいしょっと」

「!!?」

倉橋「ホントにゴメンね。床濡れちゃってるから、ちょっと我慢してね」

「だ、大丈夫ですから下ろしてください! あの、ホントに大丈夫ですから!」

倉橋「スリッパとかあればいいんだけどね〜、この家」

「話を聞いて! も、あの、許して!!」

倉橋「許して!?」

佐伯「〜〜てめえら!! とっととガムテ持ってこい! はっ倒すぞ!!」




三人「つ、疲れた……」

「もうやだ……。台風嫌い……」

佐伯「ちっさい頃はわくわくしてたのにな。学校休みになったり」

倉橋「大人になると、『自分達』が何とかしなきゃだもんなあ」

「停電、直りませんね。てっちゃん家に、ビームサーベルがあってよかった」

佐伯「普通の家は、こんなもんより懐中電灯があるだろうに……」

倉橋「でも、俺ん家もないなあ、懐中電灯」

佐伯「そういや……俺も持ってねー」

「災害対策、ちゃんとしときゃなきゃですね……」

倉橋「台風、ちっとも過ぎてく気配ないね。ご飯、どうしようか?」

「ああ!」

佐伯「今度は何だ!?」

「冷蔵庫! 停電してるんですから、当然中身は――」

佐伯「うわあああ! 俺のハーゲンダッツー!!」

倉橋「ハーゲンダッツ!? いっつもガリガリ君とかのくせに、何で今回に限ってそんなリッチなアイスを……!」

「も、もったいない……! あああ、すっかり溶けちゃって……。氷も溶けてるから、アイスもバッチリ水浸し……」

佐伯「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「か、カズナ君、あの、元気出して?」

倉橋「ガリガリ君でよかったら、今度奢ってやるから……」

佐伯「ふ、二人して哀れみの目で見んじゃねー! くそー!」

「あー、カズナ君! それ、私のチューペット!!」

倉橋「か、カズナ! それ、溶けてるだろ!? 飲むの!?」

「やーめーてーよー! チューペットなんだから、また凍らせたら食べられるのにー!」

佐伯「うるせー! バーカーバーカ!」

倉橋「やめろよ、カズナ! 何本あると思ってんだ! 腹壊したって、今トイレの水も流れないんだぞ!?」

「何でトキヤ君のツッコミはいっつも微妙にズレてるのー!?」




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