第23話 うそのつき方









を、数日ほど観察して分かった事。
どうやら彼女は自分の気持ちに気付いたらしく、やんわりと、倉橋トキヤに対して距離を取るようになった。
それはもう、驚くほど自然に。

だけど、目が、手が、言葉の端々が、やっぱり優しくて。

ああ、大切に思ってるんだな、とまるで他人事のようにそう思った。
感情と切り離して考えていないと、チリチリと焼ける胸が、余計に苦しくなる事が分かっていたから。
自分の気持ちの全てを吐き出して、楽になりたくなってしまうから。

けれどそれは、彼女の居場所を奪ってしまう事になるから。

彼女が、自分の気持ちを押し殺してまで守ろうとしている居場所を、奪う事になるから。


だから












佐伯「だから! 何でお前は俺に向かって切り掛かってくるんだよ!」

「ごめん! わざとじゃない! わざとじゃないってば!」

佐伯「ってか、お前がヘビィボウガン使ってっから、俺が接近戦用の武器に変えたのに、何で今日は太刀なんだ!」

「だってヘビィボウガン重いんだもん……! 走れなくてすぐにぶっ飛ばされるんだもん……!」

佐伯「だからって俺をぶっ飛ばすな!」

「もー、ごめんってばー!」

佐伯「ちょ、こっちくんな! こっちくんなっっ!!」




佐伯「ダメだ、休憩すっぞ、休憩」

「そ、そうですね。お茶でも淹れますか?」

佐伯「だな。――いいよ、俺が淹れてやる」

「ありがとー。苦いの駄目なんで、薄めでよろしくです」

佐伯「知ってるっつーの」

「何かお菓子でもなかったかなー」

佐伯「あ、俺のカバン中にポテチ入ってっぞー。出しといて」

「はーい。あ、ラッキー、塩味だ」

佐伯「あいよ、茶」

「ありがと。今日はバイト休みなんですか?」

佐伯「おう。お前もだっけ?」

「うん。その代わり、明日は早番ですけど」

佐伯「オツカレ。トキヤは――」

「にっっっが!!」

佐伯「アハハハハハ!!」

「なにこれ!?」

佐伯「センブリ茶v」

「これが噂の!? じゃなくて、何でそんなものを! 苦いの嫌いだっつってんのに!!」

佐伯「うん……バイト先の人に、罰ゲームの時にでも使ってみろって貰ってさ……。折角貰ったのに、もったいないだろ? 使わないと」

「何そのアンニュイな言い方! ときめいたりしませんよ!?」

佐伯「アハハハハ! ひー! マジギレしてるー!」

「当たり前ですよ! 私、漢方とかの類、大嫌いなんですから! 馬鹿! 馬鹿!! 馬鹿!!!」

佐伯「あー、ごめんごめん! マジでごめん! 悪かった! アハハハハ!」

「反省の色皆無! もう、これ、残りの全部一人で飲んで! そんでもって私に新しい茶を淹れて! 口直しの茶を!」

佐伯「へーへー。何がいい?」

「……とりあえず、先にお水!」

佐伯「りょーかい。――ほれ」

「どうも」

佐伯「ココア切れてっから、コーヒーでも飲むか? 牛乳と砂糖入れりゃ、お前でも飲めるだろ」

「うん」

佐伯「あー、笑った笑った。あ、そうそう。トキヤは今日、家の掃除だってさ。夜にはこっち来っから、晩飯待っててってさ」

「あ、そうなんですか。作りますか? 食べに行きますか?」

佐伯「材料特にねーだろ。食いに行こうぜ。ホラ、近くに出来た焼肉屋。行こう行こう言ってて、結局まだ行ってなかったじゃん」

「そうですね。んじゃ、今夜は焼肉ってことで♪」

佐伯「ん、コーヒー。コーヒーっつーか、コーヒー牛乳。こーのおこちゃまめ!」

「うるさいなあ。あ、カズナ君。携帯光ってたよ」

佐伯「あ、マナー解除すんの忘れてた。えーっと、あ、トキヤからメール。掃除、終わりそうにねーってさ」

「あーらら。ご褒美は焼肉って返信してあげたらどうですか?」

佐伯「だな。えー、『晩飯は焼肉食いに行く予定だぞー。7時までに来なかったから置いてく』ぶほぉわあ!?」

「アハハハハ!!」

佐伯「おま、俺のセンブリ茶に何入れやがった!!」

「お砂糖。そのままじゃ苦いかと思ってv」

佐伯「わー、やっさしーv ってバカ! バカ!!」

「ああスッキリした。よし、おあいこ、おあいこ」

佐伯「お゛お゛お゛苦くて甘くて渋くてお゛お゛お゛お゛お゛」

「一言で言うなら?」

佐伯「まずい」

「もう一杯?」

佐伯「誰が!」

「ですよね〜」

佐伯「あーもー、悪かったよ。悪かったから、一口ちょうだい、コーヒー。口ん中が大惨事」

「はい、どーぞ。大丈夫? ――あ、私もメールきた」

佐伯「トキヤ?」

「んーん、トモ」

佐伯「……」


だって、あいつ眼鏡好きだし


佐伯「ー」

「はーい?」

佐伯「お前って、何でトモと別れたんだっけ」

「ど、どうしたんですか急に。相変わらず、ストレートな人ですね」

佐伯「何でだっけ?」

「前にも言いませんでしたっけ?」


……会わなくても平気、連絡しなくても平気。自然と、どちらからともなく離れてっちゃったんだよな。ハハハ

……ねー、アハハ


佐伯「あれ、ホント?」

「ううん、嘘」

佐伯「〜〜おい! 今、一気に力抜けたぞ!」

「あらあら」

佐伯「そんなあっさり認められるなら、最初っからウソなんか吐くなよ」

「だね」

佐伯「……ちなみに、ホントの理由は?」

「それは秘密」

佐伯「……そりゃそうか」

「何かあったんですか? 今更、そんな事気にするなんて」

佐伯「前に会った時トモが……そんな感じの事言ってて、」

「うそ」

佐伯「――っ」

「トモが言うわけないですよ。カズナ君、嘘吐くの下手ですね」

佐伯「お前がうま過ぎるんだよ。何か秘訣でもあんの?」

「嘘吐きの?」

佐伯「そう。極意を伝授してv」

「私を一体何だと思ってるんですか……。でも、そうですね……すぐにバレる嘘を吐く事、かな?」

佐伯「バレるウソ?」

「うん。そうやって、普段から『この人は嘘を吐いたらすぐに分かる』って印象付けとくと、本当に隠したい事は大抵隠し通せますよ」

佐伯「は〜、なるほどな〜」

「だから、見た目が純粋そうな人ほど有利です」

佐伯「トキヤとか?」

「そうそう」

佐伯「そういやトキヤ、大家の娘さんのメアドGETしたんだって」

「え、そうなんですか? よかったじゃないですか、一歩前進ですね。長い一歩でしたけど」

佐伯「……だよな〜。んで、『な、何の話したらいいの!? ムリムリムリ!』ってキョドってんの。次の一歩踏み出すのに、また半年くらい掛かんじゃねーのか、あいつ」

「気の遠くなるような話だなあ」


クスクスと笑うを横目に、ポテチを頬張る。

……一瞬の戸惑いさえ、見せないんだもんなあ……


佐伯「――お前ってさ」

「……? はい?」


お前って、ホント、


佐伯「かわいくねーなあ」


自分の言葉に憤慨し、センブリ茶を振りかざすをかわしながら、ただただ苦笑する。


































その日、その瞬間から、僕はうそつきになりました。




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