第16話 ときめき★ふるばーすと
佐伯「まあ、あれだ。分かりきってた事だけど、さ」
「ん? どうかしましたか?」
佐伯「女ばっかだなあ、と思って」
「そりゃ、乙女ゲーのイベントですしね」
佐伯「たつ君の握手会以来だなあ、こんないっぱいの女の子見るの」
「私も握手会以来です、たつ君見るの♪」
佐伯「俺、周りからどう思われてんだろ? 変に思われたりしねーの? こんなトコに男がいたりして」
「私は別に何とも思いませんけどね、男性がいたって。
『誰かのファンなのかなあ?』とか、『それとも知り合い関係かなあ?』とか、『ああんv もしかして肉親?』とか思うくらいで」
佐伯「メチャクチャ色々思ってんじゃねえか!」
「だから、別に変に思ったりしませんって。大体、そんな風に考えたりするのも一瞬で、頭の中はすぐイベントの事でいっぱいになっちゃいますよ」
佐伯「そっか。それならいいんだけど……。でも、さっきから妙に視線が……」
「それはカズナ君の外見が不必要に整ってるからです」
佐伯「不必要は余計なんじゃないでしょうか、さん。
ってか、周囲の皆さん、『この男、まさか私の前の席だったりしないだろうな……』とか考えてるんじゃ……。
俺の後ろの子、確実に見えねーぞ?」
「大丈夫ですよ。私達が座るのは二階席ですから」
佐伯「二階席だと大丈夫なのか?」
「二階席は傾斜がきつい分、一階席よりも遥かにステージが見易くなってるんです。下手したら、一階席後方よりも良席かもしれませんよ」
佐伯「へー」
「それに、私達の座る席のすぐ後ろは通路になってますから。だから、カズナ君の座高がいくら高くても大丈夫v」
佐伯「誰が座高の心配をした! うん、まあ、それならいっか。安心した。ちゃんと調べてんだな、お前。エライエライ」
「それはカズナ君もですよ。なかなかそんな風に他人の心配までは出来ないものです。
こういうイベントで、頭に団子作ってくる女より遥かにマシです」
佐伯「ああ、あれは……ナシだよなあ。後ろの席になる子も気の毒に」
「確かに似合ってて可愛いんですけど……。まあ、もしかしたら、私達と同じように、二階席だったり、後ろが通路だったりする人かもしれませんし」
佐伯「もしそうじゃなかったら、ハハッ、頭の中身も可愛らしいんだろうなあ」
「……貴方、たまに私よりえげつない事言いますよね」
佐伯「お、列動いた。ようやく中に入れるー」
「建物の影に沿って並んでたから、倒れるほど暑くはなかったですけどね」
佐伯「でも、やっぱ中はホッとすんなー。すーずしーv」
「あ、そうだ。カズナ君、中に入ったら、一旦お別れです」
佐伯「は!?」
「グッズを買いたいんですけど、列が別れてるんですよね。D3のグッズと、他社製品とで。多分、D3の方が混むと思うんで、他社の方、よろしくです」
佐伯「えええ!? 一人で並ぶの!? 俺、今日はお前から片時も離れるつもりなかったんだけど!」
「二手に別れないと、効率悪いじゃないですか。ホラ、これお金です。一万二千円。
いいですか? 商品は見なくていいですから、『羊CDのボックスください』って言うんですよ。はい、リピートアフターミー」
佐伯「ひ、羊CDのボックスください」
「『ボックスは売り切れました』って言われたら、『じゃあそれぞれ一枚ずつください』って言うんですよ」
佐伯「それぞれ一枚ずつください」
「はい、よく出来ました。じゃあ、カズナ君は右。私は左。健闘を祈る」
佐伯「はぁ〜〜い……」
「カズナ君」
佐伯「ん?」
「ゴメンね、ありがとう」
佐伯「……おー」
――あいつはホント、絶妙のタイミングでああいう事言うんだよなあ……
佐伯「オツカレ。ちゃんと買ってきたぞー」
「あ、ありがとうございます! よかった、無事に買えたんですね」
佐伯「ってか、俺が行った方は5,6人ぐらいしか並んでなかったぞ。1分も待たずに買えた」
「ああ、やっぱり」
佐伯「何か理由でもあんのか?」
「まあ、単純にこっちのグッズの方が購入者が多いんでしょうけど……」
佐伯「両方買う奴だっていんじゃねーの? てっさんはこういう時、全種買うぐらいの勢いで並んでっぞ」
「人間、どっち行こうか悩んだ時は、大抵左に曲がりますからね。両方買うつもりでいるなら、尚更、どっちに向かったっていいわけですから、自然と左側が混みますよ」
佐伯「ああ、なるほど……」
「本当にありがとうございます。私の方はまだまだ掛かりますから、先に席に行っててもらっていいですよ。ロビーで何か飲んでてもいいですし」
佐伯「何言ってんだ。もう俺は、お前の傍から離れねえぞ」
「カズナ君、乙女ゲーイベントのグッズ列に一人で並ばせるなんて、申し訳なかったとは思いますが、落ち着いてください」
佐伯「あ、そっか」
女子「――え、は? わ、私?」
佐伯「あの、僕、こいつのツレで。割り込みとか、そんなんじゃなくて……買い物もしないし。買う時になったら、脇にどいてるし」
女子「はあ」
佐伯「邪魔になんないように気を付けるんで、傍にいてもいいですか」
女子「あ、はい、それはもう……ど、どうぞ」
「駄目だ。物凄くテンパっていらっしゃる」
スタッフ「清春さんのライト売り切れましたー!」
佐伯「き、清春さん? 今、あの人清春さんっつったぞ」
「あああ、ちょっと和んだけど、翼さん! 翼さん、お願いだから売り切れないで!」
佐伯「人気あるんだなあ、清春さん。それぞれ色がついてんだろ? 坊ちゃんは何色? ゴールド?」
「……素人とは思えないほど、よく分かっている発言ですね。でも、翼は赤ですよ。ゴールドだと、黄色の瞬とかぶっちゃいますしね」
佐伯「瞬の方が赤って感じだけどな〜」
「目の色がイメージカラーになってるって聞いたんですけど……」
佐伯「そうなのか? 清春さん、オレンジの目してねーぞ?」
「そうなんですよねえ。私にはよく分かりませんって、何故目の色まで把握している!?」
佐伯「あ、ああ、いや、今のはそこのポスター見ながら言った」
「び、びっくりした……。そこまで私色に染まってきたのかと……」
佐伯「んな訳あるか! 気色悪い事言うな!」
「買えた! 買えました! ほら、無事に買えましたよ、カズナ君!」
佐伯「よかったな」
「じゃあ、はい、これ。カズナ君の分」
佐伯「俺の分?」
「イベント中、特にライブの時なんかは、何か持ってないと手持ちぶさたですよ」
佐伯「ああ、そうなのか。サンキュ」
「どういたしまして。ゴロちゃんのライトにしましたよ」
佐伯「なんで? お前、瞬とかの方が好きじゃなかったっけ?」
「だって、カズナ君、緑色好きでしょう?」
佐伯「……好き」
「早く席に行って開けてみましょう。それ、キャラからのメッセージや注意書きとかもあるみたいなんですよ」
佐伯「おー。あ、これいくらだ?」
「いいですよ。付き合ってもらってるんですから、これぐらい」
佐伯「サンキューって、今日の礼がこれじゃねえだろうな! ちゃんと晩飯おごれよ、お前!」
「わーかってますよ、もう!」
佐伯&「たたた、高い!!」
佐伯「なんっっっだこれ! 傾斜きつ過ぎだろ! あぶねえ! 絶対あぶねえ!」
「わ、私もさすがにここまで高いと怖いなあ……。まあでも、イベントが始まったら、そんな事気にならなくなりますよv」
佐伯「それが危ないんだろうが!!」
「あ、そっか」
佐伯「マジで大丈夫か、これ……。お、でもステージは見やすいな」
「よかった。これなら全体が見渡せますね」
佐伯「、お前そっちの席で大丈夫?」
「はい。ありがとうございます。――あ、最初に言っとこ。騒いで腕とか叩いちゃったらごめんなさい」
佐伯「いいよ、気にせずハシャいでろ。落っこってかねーように、見張っといてやるから」
「うん!!」
佐伯「……」
たまに、……たまになんだけど、こう、
ムダに可愛いんだよお前はぁあああああ!!!
って、往復ビンタかましたくなる時があるなあ……
「あ、館内アナウンス。永田さんだー」
佐伯「これ、生? 去年はたつ君だったよな」
「生なのかなあ? 声だけ出演のトゲーやパウも喋ってるし……どっちなんだろ?」
佐伯「あ、ブザー鳴った。始まるな――」
キャー!!
佐伯「わー!?」
「だ、大丈夫ですか? カズナ君」
佐伯「え、なに!? だって、まだ出て来てねえだろ、B6!! 今何に『キャー!』っつったの、この子達!!」
「いえ、あの、今から始まるという期待が歓喜という名の悲鳴にですね……ああ! 出てきた!!」
佐伯「え、どこどこ!?」
「ホラ、真ん中!! 下から出てきた!!」
佐伯「すげぇ! 某アイドルみてぇ!」
「たつ君どこ!? 逆光で見えない!」
佐伯「何か一人髪の長いのがいる! あれゴロちゃん!?」
「ゴロちゃんにしては背が高――瞬だー!」
佐伯「アハハハハハ!! コスプレしてる!」
「ちょ、落ち着、落ち着きましょう。ああ、いたいた、たつ君」
佐伯「おー、俺、たつ君以外の声優生で見んの初めてー」
「ああ、もう、テンションが……。落ち着け、落ち着け、わた――ライブー!」
佐伯「俺これ知ってる! 真夜中救世主だ!」
「絶対OPはこれだって思ってた!」
鈴木「狂おしくて……!!」
鈴木「もっと……!!」
「エロイエロイエロイ」
佐伯「アッハハハ、たつ君、えっろー!」
「もう最っっ高……!!」
佐伯「っつか、台詞んトコになると、みんな示し合わせたように静かになんのな」
「聞き漏らすわけにいきませんからね。その辺はもう暗黙の了解で。ああ、ライブ終わっちゃった」
佐伯「誰か出てきたぞ。あれ……誰だ?」
「あれは……三浦さんですね。秘書です」
佐伯「去年はいなかったんだろ?」
「はい。でも、ここ一年で物凄く人気が出ましたからね。ドラマCDで美味しい所をかっさらっていく役は、もう彼以外考えられませんし」
佐伯「あ、翼に言われて引っ込んだ。すっげーブーイングなんだけど、ハハッ」
鈴木「心配しなくても、後でちゃんと出てくるから」
「今……! すっごい……! いい声で言った……!」
佐伯(こいつの事だし、『だから、いい子で待ってなさい』とか脳内再生されてんだろうなあ)
「あ、昼の部のコンセプトは『卒業式』みたいですね」
佐伯「T6出てきた、T6。てっさんにそっくりな杉田も出てきた」
「前髪出来てから、可愛さが増したなあ、杉田さん」
佐伯「お、卒業式始まった。……へー、何かあれだな。テーマが『卒業式』なんてしんみりしてる分、去年より真面目だな、みんな」
「はっちゃけてるB6もいいけど、こういうあの子達もいいなあ。感慨深い……。たつ君、ネクタイ素敵……」
佐伯「って、あれ? たつ君と、えーっと、ゴロちゃん? と瑞希しか卒業の言葉なかったぞ」
「ななな、なんで?」
佐伯「もしかして、昼と夜とで分けてあんのか?」
「なんですって!? そ、そんな……。たつ君が無事に聞けたのは嬉しいですけど、キヨも瞬も一も大好きなのに……」
佐伯「これ、事前に発表とかなかったのか?」
「ありませんよ! 酷過ぎる! 最萌えのが聴けなかったって人、きっと一杯いますよ!」
佐伯「それはちょっとひでーなあ(こいつ、たつ君が夜の部だったりしたら、今と比べモンにならねえくらい怒り狂ってたんだろうなあ)」
「お、怒るのは後にしましょう。集中集中。あ、今喋った三人の担当教師が歌うみたいですね。って事は九影先生は歌わないのか!!」
佐伯「、しっかりしろ。ホラ、てっさんが歌うから、てっさんが」
「うわーん、てっちゃーん!! 翼にそんなレロレロとチューしないでよー!」
佐伯「お、たつ君が一人ステージに残ったぞ」
「ソロ!? って、さすがにそれはないか。多分、禁断ロマンスも歌うんだろうし」
鈴木「担任が教えてくれてんだ。信じれば、願いは叶う。……だから、これは貴方が望んで、手に入れた物だ」
「チュってしてフッてした! 見た!? 今、手にチュってして、そのチュウを客席に向かってフッてした!」
佐伯「わ、分かったから、ちょっとスクリーン見ろよ、何か出て――」
特 報
「あ、カズナ君。耳塞いだ方が――」
ぎゃああああ!!!
佐伯「ひぃいい!!」
「新作発表来ちゃった!」
佐伯「え、なに!?」
「後で説明します! ちぃ! 画面切り替わり早過ぎ! 目で追い切れない!」
佐伯(ちゃん漢前!)
……
佐伯「すぅげー……。何か、みーんなグッタリしてんだけど」
「騒ぎ疲れたのと、僅かな情報を頭に入れるので必死だったんですよ、きっと……」
佐伯「結局、続編が出ますって事か?」
「はい。Vitamin Zが2009年の春に出て、秋にVitamin Yってミニゲームが発売されます。問題はZ! Zですよ!」
佐伯「キャラは一新されんの? 一瞬だったけど、翼がいたような気がすんだけど」
「私も見ました。オールバックの眼鏡は翼だと思うんですけど……銀ちゃんの真似かしら」
佐伯「Zの何が問題なんだ?」
「今のムービーを見る限り、B6全員が教師になってるっぽいんですよ。夢はどうしたの、お馬鹿さん達!」
佐伯「ああ、翼はモデルとか言ってたもんなあ」
「まだまだ詳細は分からないんで、今からあれこれ言っても仕方ないんですが……。よく分からんからこそ、変に想像が膨らむ!」
佐伯「はいはい、よしよし。ほら、フリートーク始まったぞ」
三浦「最近卒業した事はノーパンです!」
佐伯「6年も履いてなかったのか!」
「しかもそのノーパンは菅沼さん発信! パンツ履くのが面倒臭いって、凄い言い分だな……」
佐伯「一は汗脇パッドだってさ、ハハッ」
「ちょ、今日のプレゼントでそれを贈った人、一杯いるでしょうに!」
佐伯「貰い過ぎで困ってたんだろうなあ。あ、ゴロちゃんの語り入った。タイトルが『Last Kiss』! ヤバいヤバい、居心地悪くなりそな雰囲気」
岸尾「センセ、ぎゅ〜ってしていい? 首を」
佐伯&「アハハハハ!」
「あ、またライブが始まるみたいですね」
佐伯「俺、一応お前から貰ったMDで予習してきたんだけど、こんな曲あったっけ――」
「新 曲 だ ー !」
菅沼「抱いて〜抱いて〜千夜〜一夜〜♪」
菅沼「トゲマクマヤコン」
吉野「Hi! Hi!! Hi!!!」
鳥海「エマージェンシー! エマージェンシー!!」
禁 断 ロ マ ン ス
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
佐伯「衣装チェンジまで! たつ君、帽子かぶってる、帽子」
「かかか、格好良い、たつ君! 小野Dも、すっごい気合入れて歌ってくれてる!」
佐伯「すっげー盛り上がり! そんでもって俺、これ完ぺきに歌える! たつ君、二番の歌詞間違えただろー!」
鈴木「……愛してるんだろう?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
佐伯「だ、大丈夫か? お前。」
「もう駄目、もう駄目、もう駄目、も――」
RAP部分で、強烈な腰回し炸裂
「☆▽※◇*!!!??」
佐伯「ー、ー、お前、マジで倒れそうになってっから、腕掴んどくぞー? まあ聞こえてねーだろうけど」
……俺、その内、たつ君相手にも妬くようになんのかなあ
「お、お、お、終わった。終わった……終わっちゃった」
佐伯「何でお前がたつ君より疲れてんだよ。ほら、最後の挨拶。しっかり聞けよ」
鈴木「ビタミンY、Zと来たんで、次はビタミンAでアニメかな! とか思ってます」
「!!!(それはいらない!)」
佐伯(こいつ今、「それはいらない!」とか思ってんだろーなー)
「ああ、本当に終わっちゃった……」
佐伯「だな」
「楽しかった……」
佐伯「俺も。結構楽しかった」
「楽しかった〜……」
佐伯「……」
自然と、頬が緩むのを感じて、慌てて持っていたウチワを口元へと当てた
佐伯「よかったな」
「うん」
佐伯「また、いつでも付き合ってやっから。今日ので、大分慣れたし」
「本当に?」
佐伯「うん、ホントーに」
「よかった! ……ありがとうございます」
佐伯「どーいたしまして」
だから、お願いだから、
他のヤローを誘ったりしないでくださいネ
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