第17話 モンハン
倉橋「ちゃん、……ちゃん?」
「え? あ、……ごめんなさい。気が付きませんでした」
倉橋「なんだ、i-pod聴いてたのか。ゴメンね、待たせちゃった?」
「大丈夫ですよ。私が早く来過ぎちゃっただけなんで。――外、そんなに暑かったんですか?」
倉橋「え?」
「凄い汗」
倉橋「ああ、遅れるかと思って、少し走ったから。ちゃん、基本十分前行動だし」
「……」
倉橋「喉渇いたー! すみませーん、ストロベリージュースください」
「それ、余計喉渇きません? 苺くるまで、私のメロンソーダ飲んでてもいいですよ」
倉橋「ホント? ありがとー。――てっさん家、そろそろ工事終わったかな?」
「13時には業者の人が来るって言ってましたから。もう終わってるんじゃないですか?」
倉橋「ちゃんが賞品の電化製品にエアコン選んでくれたお陰で、これから快適になるね〜、てっさん家」
「扇風機だけじゃ、あの家地獄ですからね。まあ、主に私の所為なんですが」
倉橋「いやー、俺らもホントたまり場にしちゃってるからねー。電気代の徴収、もうすぐだっけ?」
「今回は少し高いかもしれませんね」
倉橋「こないだ、酔っ払ったカズナが冷蔵庫に一晩中頭突っ込んでたからね〜」
「ああ、そういえば。……どこぞの節約ベーシストですかあの人は」
倉橋「高かった分はあいつに払わせよーね」
「ね。いえ多分、猛反発されると思いますが。特に私は」
倉橋「大丈夫大丈夫。文句言ってきたら、言い返してやんな。『あのエアコンが目に入らぬか!』って」
「アハハハハ」
倉橋「あ、そうだ。ゴメンね、今日はわざわざ」
「いえいえ、どういたしまして。ここでお渡ししても?」
倉橋「うんv」
「そんな満面の笑みで……。じゃあ、はい。どうぞ」
倉橋「ありがとー♪ うわ、もうずっと欲しかったんだよなー、PSPとモンハン!」
「色、本当に黒でよかったですか? うちの店、今それ以外置いてなくて……」
倉橋「うんうん! ありがとー、ちゃん!」
(……可愛いなあ、この人)
倉橋「それで、さん。お値段の方はいかほどで……」
「ざっと……こんなもんで」
倉橋「安っっ!!!」
「中古品ですからね。あと、取り扱い説明書が入ってないんですよ。大丈夫ですよね?」
倉橋「大丈夫。ちゃんいるし。でも、それだけでこんなに安くなるもんなの?」
「ん? そりゃだって、私、従業員ですし」
倉橋「……ああ、そっか。牛耳ってんだったね」
「だから! そんな事してませんってば! もう!」
倉橋「うそうそ! 本当にありがとねー。マジで嬉しい」
「嬉しい?」
倉橋「うん、嬉しいv」
「よかったv」
倉橋「モンハン、カズナがすっげーハマっててさー。面白そうだなーって思ってたんだよなー♪」
「確かに。私も買いましたもん」
倉橋「え、うそ!?」
「ホント。ホラ」
倉橋「ホントだー、じゃあ三人で一緒に出来るね! もう結構進んだ?」
「ううん。どうせだったらトキヤ君と一緒に始めようかなって思って。OPムービー見ただけ」
倉橋「あ、そうなんだ。……今、ここでやってみる?」
「……やりますか」
倉橋「やっちゃいましょうかv」
倉橋「キャラメイキングから入るんだね〜。あ、名前がアルファベットでしか入らない」
「結構細かく指定出来るんですね。声まで選べるとは」
倉橋「どんなのにする? どんなのにする? 当然女の子でやるんでしょ?」
「そりゃまあ。うわー、バリエーションあり過ぎて、何かどれも同じに見えてきた。メガネはないのか、メガネは」
倉橋「さすがにないんじゃない? あ、アフロがある!」
「アフロにするの!?」
倉橋「ううん。言ってみただけ」
「ああ、ビックリした……」
アンッ……
倉橋「うわあ!?」
「あ、type10の声は超絶色っぽい」
倉橋「やーめーてー! やたらと連打しないでー!」
「男の声でエロイのはないのかな〜」
アァ……ッ
倉橋&「!!」
「トキヤ君、これにして! type11にして!」
倉橋「ぜってーやだ! いやだからね! あ、こら! 俺のPSPに触んなー!」
「えー、ケチー。じゃあいいですよ。私はさっきの声にしよーっと♪」
倉橋「ちなみに、声以外はどんなのにしたの?」
「こんなの」
倉橋「なにこのゴツイ顔! ってか、声とのギャップがあり過ぎなんですけど! ガングロ! 懐かしのガングロだ!」
「最近見かけなくなりましたよね、そういえば」
倉橋「普通、こういうキャラメイキングって、自分に似た容姿にしない?」
「そうですか? こっちの方が強そうかなと思って」
倉橋「もっと可愛いのにすればいいのに」
「……じゃあせめて髪をピンク色に」
倉橋「譲歩の方向が間違ってる!」
倉橋「って、うわ! キャラメイキングだけでこんなに時間掛かっちゃったよ!」
「少し夢中になり過ぎましたね」
倉橋「さすがにそろそろ切り上げないと、お店の迷惑かな〜。――あ、浴衣だ」
「え? ああ、ホント。夏ですねえ」
倉橋「どこかでお祭りでもあるのかな?」
「みたいですね。トキヤ君の後ろの壁に、ポスター貼ってありますよ」
倉橋「ホントだ。へー、花火もあるんだ。一緒に行く?」
「……残念ながら、この後バイトなんです」
倉橋「そっか〜。あ、ゴメンね。仕事前に長い時間付き合わせちゃって」
「大丈夫ですよ。楽しかったですから。今度、一緒に狩りしましょうね」
倉橋「うん!」
店長「お嬢、そろそろ休憩入っていいっすよ〜」
「はーい」
お客「えー!」
「はいはい、また30分後にね」
客@「あ、よかったらこれ、休憩中に食べて。はい、チョコv」
「ありがとーv」
客A「これもこれも! はい、クッキーv」
客B「お、俺もあげる! あの、えと、えっと、な、何がいい?」
「傅いてそのチョコとクッキーを私に『あーん』ってして」
客@「何かがさんの琴線に触れた!」
客A「上目遣いか! 上目遣いがよかったのか!」
店長「お嬢、いい加減にしとかないと、休憩時間なくなりますよ」
「アハハ。んじゃ、改めて休憩いってきま〜す」
お客「いってらっしゃーい!」
「――あ、トキヤ君からメール来てる。……ムービー付き?」
倉橋【バイトお疲れ様(^^) 結局カズナとお祭りに来てます。来年は一緒に行こうね】
「……」
ムービーを再生してみると、そこには酔っ払って騒ぐカズナの後頭部と、花火。
画質、音質共に最悪だったが、花火が打ち上げられる度にはしゃぐ聞き慣れた二人の声に、自然と顔がほころんだ。
何よりも、一年後の未来も一緒にいる事が、まるで当たり前かのように思ってくれているのが、嬉しかった
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