第13話 七夕
「……短冊?」
倉橋「あ、おかえり、ちゃん」
佐伯「オツカレー」
「ただいま。どうしたんですか? これ。ほのぼのイベントが続きますね」
倉橋「何の話? それね、さっき商店街で買い物した時に貰ったんだよ」
佐伯「商店街の真ん中にある、でっかい木に吊るすんだってさ」
「笹じゃなくて? あの木、確か12月にはクリスマスツリーになってましたよね」
倉橋「そうなの? 適当だなあ、ハハッ」
佐伯「七夕かー。短冊貰うまで気が付かなかったなー。印象薄くね?」
「というか、祝日じゃないからでしょう」
佐伯「それだ」
倉橋「毎年、大抵雨か曇りで天の川見えないしねえ。織姫と彦星が最後に会えたのって、一体いつなんだろう……」
佐伯「欲求不満になりそうだな」
「何言ってるんですか。星は見えてないだけで、雲の上にはちゃんとあるんですよ。だから、毎年キチンと会えている筈です」
倉橋「ちゃんがロマンチックな事言った!」
佐伯「そりゃ雨も降るわけだ!」
「自分達のいちゃついてる姿を見られたくないから、雲で隠してるんですよ、きっと」
倉橋「……」
佐伯「ああ、なるほど。一年ぶりに再会するカップルがやる事なんざ、一つしかねーもんな」
「ね」
倉橋「前言撤回! ちゃん、短冊書こう。ホラ、ピュアな心を取り戻そう」
「そ、そんなもの元から持ち合わせてませんよ」
倉橋「じゃあ俺が短冊に書く。『ちゃんがピュアなガールになれますように』」
「やめて! そんな物を商店街のど真ん中にぶら下げようとしないで!」
佐伯「俺も何か書こっかなー」
「七夕イベントといえば、テニスの汗と涙ですね。初期は恋愛色が薄かった分、やり込んだな〜」
佐伯「あいつの独り言は本気で意味が分かんねーな」
倉橋「多分ゲームの話だよ」
佐伯「それぐらいは分かる。ってか、それしか分かんねえ。ブツブツ言いながらどこ行ったんだ?」
「チューペット、誰か食べますかー?」
佐伯「食うー」
倉橋「俺はいいー」
佐伯「短冊、何にしよっかなーっと。やっぱCELL関係か?」
倉橋「最近ほどほどに順調だけどね。もっとこう、ガガンッと売れるようにとか?」
佐伯「だな。儲けがねえとスタジオ一つも借りらんねーし」
倉橋「印税生活とか、してみたいなあ」
佐伯「っていうか、金欲しいなあ」
佐伯&倉橋「……」
佐伯「ダメだ俺達! アーティストなのに夢の欠片もねえ!」
倉橋「こんな筈じゃなかった! 夢を追いかけ始めたあの頃は!」
佐伯「やめろ! 切ない事を言うな! そのフレーズで一曲書きたくなるだろうが!」
「何をギャースカと騒いでるんですか? はい、カズナ君。チューペット」
佐伯「サンキュー。願い事、何にしようか悩んでたんだよ。お前、何書くの?」
「『鈴木達央が具現化しますよーに』」
佐伯「お前のたつ君は何者なんだ!!」
「2.5次元の存在なんだもん、たつ君は」
倉橋「でもちゃんの方がよっぽど夢があるねえ」
佐伯「じゃあ俺はあれだ。『百億万円ください』」
「夢があるんだかないんだか」
倉橋「『ストロベリージュースのプールで泳ぎたい』」
佐伯「『溺れたい』の間違いなんじゃねーの?」
「トキヤ君、泳げないんですか?」
佐伯「そー。浮き輪抱えてサーフィンすんだぜ。目立ってしょうがねーの」
「運動神経がいいんだか悪いんだか」
倉橋「あ、俺、最近は飲むヨーグルトにもハマってんだよね♪ じゃあイチゴヨーグルトでv」
「それはもうプールというより沼なんじゃ……」
佐伯「沈んだら最後、二度と這い上がってこれねえな。『毎日お姉ちゃん達に囲まれて暮らしたい』。ああでも日替わりでもいいかも!」
「『前後左右からいい声で「バーカ」って言われたい』」
倉橋「何だそれ」
「こう……『仕方ねーな、お前は』みたいな微笑み付きで」
佐伯「ホント、どうしょうもねーな、お前は」
「違う! そんな生暖かい視線は違う! しかも微妙に私を見ていない!」
倉橋「身長伸びないかなー、あと5cm!」
佐伯「お前が伸びるなら、俺も伸びる」
倉橋「何でだよ! 真似すんな!」
佐伯「お前より低いのはぜってーやだ! ずぅええええってーやだ!!」
倉橋「俺だってやだよ!」
「男の子だなあ。『世界の「美」の基準が、私になりますよーに』」
佐伯&倉橋「ちょっと待て」
佐伯「何だその清々しいまでに自己チューな願い事は!」
「だって、『美人』にしてもらったって、それが好きになった人の好みかどうか分かんないし」
倉橋「じゃあ万人受けする美人にしてもらえば?」
「それでも、その『美』を保っていくのに並々ならぬ努力が必要だし。
『私』を基準に、この世の美を設定しといてもらえば、太ろうが禿げようが、私が世界で一番♪ 好きよ、好きよ、好きよ、ウッフン♪」
佐伯「お前はホント、ムダな方向に頭がいいなあ……」
「だから! その生暖かい視線は私が求めてる物じゃないですってば!」
佐伯「なーんで俺がお前の望んでる男になんなきゃいけねーんだよ、バーカ」
「うわあ、ムカツク! 何がムカツクって、『バーカ』だけ私好みの声で言いやがった!!」
倉橋「『カズナとちゃんが仲良くなりますように』」
佐伯&「短冊がもったいない!!」
「駄目ですよ、トキヤ君。もっと私利私欲にまみれて生きないと。いつか、絶対に損します」
倉橋「私利私欲……」
「今、いっちばん欲しい物は?」
佐伯「そーそー。普通なら絶対に手に入らねえモンとか、メチャクチャ高いモンとか」
倉橋「うーーん……PSP?」
「〜〜それぐらい私が買ってあげる!!」
倉橋「うわぁあ!!」
「何なのこの人! 欲しがる物全部買い与えてドロドロに甘やかしてやりたい!!」
倉橋「ちょ、ちゃ、分かったからいやあんまりよく分かんないけど、痛い! 痛いです! 首絞まってる!
何なの!? 一体今、何がそんなに君のツボにハマったの!?」
佐伯「うーわー、チョー暑苦しいんですけどー。見てるだけでウザイんですけどー」
倉橋「だったら助けろよ! ――ちゃん、ギブギブ!」
佐伯「『助ける』イコール『倉橋トキヤを3メートルほど蹴り飛ばす』なんだけど、実行していい?」
倉橋「いいわけないだろ!? 何その絶対零度の視線! 温度差が! カズナと俺達との間に、見えない壁が!」
佐伯「さすがに女のを蹴り飛ばす訳にもいかんだろー」
倉橋「『蹴り飛ばす』から離れてください、カズナさん!」
佐伯(「離れろ」はこっちの台詞です、トキヤさん)
「あ、雨」
倉橋「え? ――あ、ホントだ」
佐伯「短冊より、まーたてるてる坊主吊るさなきゃだな」
「そろそろこの鬱陶しい季節も終わりですね。終わったら、本格的に夏だー」
倉橋「好きなの? 夏」
「大嫌いですv」
倉橋「暑いから?」
「暑いから」
佐伯「この部屋とか、地獄と化すんじゃねーの?」
「うあー、想像するだけで嫌だー」
倉橋「『今年の夏は、涼しくなりますように』」
「『てっちゃん家にエアコンが導入されますように』」
佐伯「『カキ氷食いてー』」
倉橋&「ぅおい」
佐伯「食いたくねえ?」
「食べたいです」
倉橋「二人とも、その手に持ってる物はなに?」
佐伯「食い終わったチューペット」
「これ、最後の一本だったんですよ。足りませんね」
佐伯「商店街まで食いに行くかー。んで、帰りに短冊吊るしてこよーぜ」
倉橋「そうだな。んじゃ、願い事書いて出掛けようか」
「はーい」
佐伯「俺、絶対見られないように、一番てっぺんに吊るそ♪」
「エロイこと!? エロイことを書くつもり!?」
倉橋「心配しなくても、誰も見ないよ。お前の願い事なんか」
佐伯「何だとコラァ!」
「まあでも、本音を書くなら、誰にも見られない方がいいかもしれませんね。吊るす時はバラバラに吊るしましょうか」
倉橋「うん、いいよ。じゃあ真面目に書いちゃおーっと♪」
「私もーっと♪」
佐伯「おーれもっと♪」
今、結構楽しいんで、このままでいいです。 できれば、もう少ししっかりした男になりたいです。 . |
来年の七夕も、一緒にわいわい出来ますように . | きづかれませんよーに |