「DearGirl〜Stories〜、第97話に……続く!」




「お疲れ様でした〜」


収録中より、少しトーンを下げた声に振り返る。
「おつかれ」と言葉を返すと、小野君は俺の隣に小走りで並んだ。


「神谷さん、これから何か用事とかあります?」

「え? いや、もう家に帰るけど……」


そう答えると、小野君は顔を輝かせ、「じゃあ」と俺の前に回る。


「ちょっと付き合ってもらえませんか? ちょっとだけなんで」


こちらの反応を窺いながら、お願いをするように両手を顔の前で合わせてみせる小野君。
やめろ馬鹿。それは可愛い子にのみ許された仕草だ。
うわ、その状態で小首を傾げんな!


「別にいいけど……珍しいね。小野君から誘ってくるなんて」

「神谷さんからだって、誘ってくれないじゃないですか」

「俺ら、別に仲良しさんじゃないもんねえ」

「ひどっ!」


収録中のようなやり取りに、さっきまでの感覚が甦ってきたのか、若干ウザいテンションに戻りつつある小野君。
それを無視して、俺は止めていた足を再び進め始めた。


「なに? どっか行くの?」


心なしかウキウキしている小野君を見やる。
すると、小野君はこれまた嬉しそうに、リズム良く人差し指を振った。


「ひ・み・つ」


……うわあ……。


「あ、神谷さん! 今何で僕から一歩遠ざかったんですか!」

「何言ってんの? 気のせいでしょ。ハハハ。ホント、自意識過剰だな、このハンサムボーイは」

「ちょ、神谷さん! 神谷さーん! 何かもの凄い勢いで僕らの距離が拡がっちゃってるんですけどー!」

「心の距離だよ」

「誤魔化してさえくれなくなった!」


大袈裟に嘆いてみせる小野君に、軽く視線をやり、早く歩くように促す。
小野君は笑いながら、跳ねるように俺の前に躍り出た。


「楽しみにしててもいいですよ! 神谷さん、絶対喜ぶから!」


「キラーン☆」と効果音でも聞こえてきそうな笑顔に、またまた俺のテンションが下がる。
前を見て歩かないと消火器にぶつかるよ、という言葉は掛けてやらなかった。




「何だ、中村君家じゃん」


小野君に連れてこられたのは、同じ声優仲間の中村君の家だった。
何度か訪れた事のあるアパートの前で肩をすくめる。


「で? ここがどうしたの? もしかして、誕生日でも祝ってくれるの? ――小野君、いつまで渋い顔してるの」

「いや、さっき強打した右の踵がですね、そりゃもうとっても痛くってですね……」

「はいはい、ご愁傷様。寒いし、中入ってもいい?」


さらりとスルーして、ドアノブに手を掛けようとする俺を、小野君が慌てて制し言った。


「あ、神谷さん。ドアを開けたら、『ただいま』って言ってくださいね」

「…………なんで?」


俺の当然の疑問に、小野君はニコニコとして答えない。
湧き上がってくる嫌な予感に、俺はそのままUターンをしたくなってきた。


「まさか……まさか、中村君まで女装してスタンバってるんじゃないだろうな……!?」

「へ?」

「お前、もしそんな光景を俺に見せてみろ! 消火器で背中ゴロゴロするぞ!」

「あー! あー! 地味に痛い! それ絶対地味に痛い!」

「金も出ないプライベート中に、そんな酔狂付き合ってやらないからな!」


小野君があたふたと「大丈夫、大丈夫ですから!」と両手を広げる。
生憎と、そんな根拠のない「大丈夫」で安心できてしまえるほど、俺はお気楽人間じゃあない。
けれど、このままここで押し問答をしていても寒いだけだ。
疑いの眼差しはそのままに、俺は目の前のドアを開いた。


「……」


小野君が、「ほら、神谷さん!」とでも言いた気な顔で頷いてみせる。
不本意極まりない気持ちいっぱいで、俺は部屋の奥へと声を掛けた。


「た、……ただいま」


少し間が空いて、奥からパタパタと足音が聞こえてくる。
中村君にしては、随分と足取りが軽やか――


「お、おかえりなさ〜い! ご飯にする? お風呂にする? それとも……あ・た・し?」

「……」


思考回路はショート寸前って、きっと今の俺みたいな状況を言うんだろうな。


「ひろC!? ひろC−!!」


硬直している俺の肩を、小野君が力一杯揺さぶる。
半笑いの顔が、心底ムカつくぞ、この野郎。
けれど、ガクガクと脳みそに衝撃を与えてくれたお陰で、ようやく俺の頭が回り出した。
と、とりあえずあれだ。ドアを閉めよう。寒いしな。


「あ、ちょ、神谷さん! 僕も入れてくださいよ!」

「あ、ああ、ごめん」

「素!? 今の閉め出し、素でやったの!? どんだけテンパってんですか!」


喚く小野君を無視して、俺はこめかみを押さえながら、先ほど出迎えてくれた――に向き直った。
目が合い、少し困った顔をして笑う彼女に曖昧な笑みを返し、俺の脳みそは物凄い勢いで活動を始めた。

オッケー、落ち着こう。
彼女もまた、小野君や中村君と同じ声優仲間だ。
たまに一緒にご飯を食べに行ったりする、他の女性声優達よりは親しい間柄の、声優仲間だ。
声優仲間だ。

そんな彼女がなぜ、俺の目の前に裸エプロンで立っているのか。


「……えっと、ちゃん?」

「は、はい」

「その……何やってんの?」


ひくつく喉が、そのたった一言を発するのに、どれだけの労力を要したか。きっと彼女には想像も出来ないだろう。
俺のその言葉を受け、ちゃんは照れたように頬を掻いた。


「神谷さん、もうすぐお誕生日なんでしょう?」

「ああ、うん、そうだね。お誕生日だね」

「それで、プレゼント何がいいかなあって小野さんや中村君に相談したら……」

「相談したら?」

「途中から、お酒入っちゃって。テンション上がった状態で男のロマンがどうのとかいう話になっちゃって」

「男のロマン……」

「……いつの間にかこういう方向に……」


そう言って、ちょっとエプロンをつまんでみせるちゃん。
言葉を失う俺をそのままに、彼女は続けた。


「お誕生日当日は、神谷さんお仕事だって聞いたんで、じゃあ今日お祝いしちゃおうかって話になって」


そんなちゃんの後ろから、中村君が顔を出した。


「いつまでそんなトコで立ち話してんの?」

「神谷さんが、なかなかこっから動いてくんないんだよ〜。俺、超足痛いのに」


ちゃんの後ろから……


も、そんな格好でいつまでもこんなトコいたら、マジで風邪ひくぞ」

「あ、でも中村君が暖房ガンガンにかけてくれてるから、見かけほど寒くないんだよ。ありがと」


後ろから!?


ちゃん!!」

「え!? は、はい!?」

「何そんな無防備に中村君に背後取られてんの!? み、み、見えちゃうでしょ!!」


力任せにちゃんの腕を掴み引き寄せる。
なるべく彼女の方を見ないよう、背中に庇おう――として気が付いた。
駄目だ! こっちには小野君がいる!


「神谷さ〜ん、ちょっと落ち着いてくださ〜い」


中村君の呑気な声に、俺の神経が逆撫でされる。
声を荒げそうになった所を、服の裾をチョイチョイと引っ張る手に制止された。


「神谷さん、神谷さん」

「なに――」


思わずちゃんの方を振り返りそうになり、慌てて中村君へと視線を戻す。

見てない!何も見てない!
白くて柔らかそうだなんて思ってないったら思ってない!

苦笑した中村君を睨みつけたまま、心の中で首を振る。
そんな俺に、ちゃんが申し分けなさそうにもう一度声を掛けてきた。


「あの、神谷さん、大丈夫なんです」

「何が!」

「私、この下にちゃんと着てますから……」

「………………へ?」


信じられないほど、間抜けな声が出た。


「キャミソールと、ショートパンツ履いてるんで……少し大き目のエプロンだから、何も着てないように見えるんですけど」


ヘヘッと笑うちゃんに、あんぐりと口が開く。


「さすがに、本気で裸エプロンなんかやるわけないっしょ。常識的に考えて」

「も〜、神谷さんってば早とちりだな〜」

「でも、驚いてもらえたなら大成功だね。サプライズ」


小野小野、いや違った各々が好き勝手な事を言いながら、俺の横をすり抜け、部屋の奥へと消えていく。
ちゃんの後姿は、確かに裸なんかじゃなくて、ちゃんと洋服を身に付けていた。


「いや、お前、違うだろ。本来の目的は驚かせる事じゃなくて、喜ばせる事なんだから」

「あ、そっか」

「だ〜いじょうぶだって! 男で裸エプロンにテンション上がらない奴がいたら、ビョーキだよ、ビョーキ」


一人玄関に取り残された俺の肩が、わなわなと震え出し、そして


「あれ? 入んないんですか? 神谷さん」


小野君がひょっこり顔を覗かせた途端、爆発した。


「ちょっとそこ座れ、三人とも!!!」




チョコンと正座した三人の前に仁王立ちし、ジロリと睨み付ける。
小野君だけが、怯えたように体を縮こまらせていた。


「まず最初に言わせてもらおうか。――結論がおかしい」


三人が顔を見合わせ、首を捻る。まるで、「どこが?」とでも言いたげな様子で。


「いや、おかしいだろ!? 何で裸エプロンに落ち着くんだよ! どう見たって不時着じゃんか!
 ここに至るまでに、誰か気付かなかったの!? つっこまなかったの!?」

「最初は腕時計とか帽子とか、まともなこと言ってたんすけどね」

「けど神谷さん、そういうのファンの子達からいっぱい貰うじゃないですか。だからこう……ちゃんにしか出来ないような事をね」

「ね」


その様子に、俺の青筋がまた一つ増える。


「ホントに……! 君は……! 頭が悪いな……!」

「わ、わ、わ」


わっさわっさとちゃんの髪の毛をかき回し、抑え切れない苛立ちをぶつけてやる。
分かってない! この子は本っっっ当に、分かってない!!


「ちょっと、やめてくださいよ、神谷さん。こいつ、ただでさえ頭弱い子なのに」

「こ、この案は三人で出したモノだよね……!?」

「だからって、普通やんないでしょ」

「そう思ってんならとめろ!!」

「なーに言ってんすか」


憤慨する俺に向かって、中村君が爽やかに言い放つ。


「裸エプロン『もどき』とはいえ、こんなおいしい光景が間近で見られるチャンスを、俺が自分で潰すわけないじゃないっすか」

「あれ!? 何か身近に鬼畜な人がいるよ!?」

「中村君、私の事そんな目で見てたの!?」

「俺は世の女性をすべからくイヤラシイ目で見てる」

「自慢するような事か!」


ゼイゼイと息を切らし、床に膝をつく。
駄目だ……! 完璧にこいつらのペースだ……!
脱力しかかってる俺に、小野君が更なる追い討ちをかける。


「あ、分かった!」


ポン、と右の握り拳を左手に乗せ、小野君は唐突に自分の鞄を漁り出した。
どうせくだらない事なんだろうけど、それを止める気力が出ない。
見守る俺の冷めた視線には気付かず、小野君は取り出した「それ」を、そっとちゃんの頭に【装着】した。
そして、得意げに鼻の穴を膨らます。


「これこれ! これが足りなかったんだよね! ね、神谷さん!」


そうそう、これが足りなかったんだ……って


「アホか貴様!!」


あろう事か、小野君はちゃんの頭の上にネコ耳を乗っけやがったのだ。
ってかそれ、さっきまで杉田君が着けてたやつじゃないのか!?
爆笑している中村君をひっくり返し、彼の履いていたスリッパで、小野君の頭をぶん殴る。
のたうち回るキモい人は、涙目で俺にちゃんをズズイと差し出した。


「だ、だ、だって神谷さん、ネコ好きじゃないですか! ネコにふりふりエプロンにちゃんですよ!? スペシャルセットじゃないですか!」

「ほら、。神谷さんに何か言ったげな」

「な、なにか? えっと……」


心底困った顔をしたちゃんが、ぎこちなく笑い――


「…………にゃ、にゃあ」


沈黙が流れる中、中村君が一人、大きな体を震わせて笑いを堪えている。
ちゃんの前だと、ホント笑い上戸だな、こいつ。


「ね。ホント、頭弱いっしょ?」

「ああもう……」


頭、痛くなってきた。
半ば現実逃避気味にうなだれる。
そんな俺を放ったらかして、三人が再びきゃいきゃいと喋り出した。


「ビックリはしてくれたけど、あんまり喜んでくれなかったね」

の色気が足りなかったんじゃない?」

「おっかしいなあ。俺、ネコ耳買いに、わざわざドンキにまで行ったのに」

「メイドさんの方がよかったのかな」

「あ、それ俺が去年やったけど、いまいちな反応だったよ」

「そりゃ着たのが小野さんだったからでしょ」

「結構イケてたと思うんだけど……あ、さっきの収録でたいてむさんもやったんだよ」

「楠さんも!? うっわ〜、俺マジ呼ばれなくてよかった〜」

「でもさ、あれらを見た後だからこそ、ちゃんがより一層可愛く――はっ!」

「え? なになに? どうしたんですか?」

「な、何でもない何でもない何でもない」

「いや、全然何でもなくないでしょ、それ」

「……実は今年は、ガチで女性声優呼んじゃって。それもロシア人美女を……」

「……あー、そりゃに勝ち目ないわ」

「ろ、ロシア人美女……!」

「やっぱもうちょっと露出面を頑張るべきだったんだって。エプロンの下、キャミと短パンじゃなくて水着にするとかさ」

「!!?」


そう言って、中村君が軽くちゃんのエプロンをめくった所で、俺はようやく我に返った。


「お、お前らちょっと出てけぇ!!」




玄関の向こうの、「ちょっとここ俺の家」とか「さ〜む〜い〜」とか、そんな声はとりあえず無視だ。
とにかく、ちゃんには着替えてもらわないと……!
意を決して彼女に向き直り、何かもうおでこの辺りを見つめながら話しかける。
相手のこんな部分を凝視しながら会話するのなんて、浩史、生まれて初めてです。


「……ちゃん」

「なんですか?」

ちゃんも、もういい大人なんだから……何か行動に移す時は、いったん頭で考えてからにしなさい。いえ、してください」

「考えてから……」


ちゃんが明後日の方向を見上げ、考え込む。


「はい、考えた上で、俺に何か言うべき事は?」


そう言うと、ちゃんは俺に視線を戻し、なぜか右手で握り拳を作った。
何かそのポーズ、選挙ポスターの意気込む政治家みたいだ、よ――


「好きです」


……とうとう、俺の思考回路はショートしてしまった。
いや、違うんだ。俺はこう、今回の軽率な行動に対する反省の言葉とかそういう類の言葉が聞きたかったわけで。
好きって何が? 裸エプロンが?
裸エプロンなら俺も好きだこの野郎!
というか、この子いつまでネコ耳着けてんの? だんだん違和感がなくなってきたぞ。
違う違う違う! しっかりしろ、俺!!


「ちょ、ちょっと待って……。今、俺に言わなきゃいけない事って、その言葉でいいの? なにが? ホントに? エプロンが?」


何を言われたのかがよく分からないし、自分で何を言っているのかも分からない。
ちゃんは、眉間にシワを寄せると、再びう〜んと唸り出した。
そして今度は、両手で俺の肩をガシッと掴み、力強く言った。


「だ、大好き、です。神谷さんが」


大好きって神谷さんが?
神谷さんってなに?
ネコ耳いつまで着けてんの?

神谷さんって俺だ!!!


「あの、神谷さん?」


好きって言った! 今この子、俺に好きって言った!

裸エプロン(もどき)で!!!

何なの!? 俺の理性値でも計測したいの!?
悪いけど、俺の臨界点はそれほど高くないよ!?


「か〜み〜や〜さ〜ん?」


いつまで経っても硬直したまんまの俺に、ちゃんが顔の前で手を振るというベタな行動を取る。
俺はそりゃもう必死に「ここは中村君の家。ここは中村君の家」と、心の中で唱え続けていた。
口の中が、いつの間にかカラッカラになっている。
俺は声優らしからぬしゃがれた声で、ようやく言葉を搾り出した。


「す、好きって、俺が?」

「はい」

ちゃんが、俺の事を?」

「はい」

「それは、えっと、えー、……本当に?」

「はい」


俺の問い一つ一つに、真面目な顔をして答えていくちゃん。
俺の方はといえば、どんな顔をしていいのか分からなくて、この上なく微妙な表情だった。


「じゃあ、付き合お……っか?」

「――! はい!」


パッと顔を輝かせ、即答するちゃん。
ちょっと待て俺。いいのか? 今の返事の仕方って、あまりにも素っ気無くないか?
けれど、ちゃんはそんな事を気にする様子もなく、ニコニコと笑っている。ほんの少し、頬を赤くしながら。
途端、実感が沸いた。
彼女になったんだ、この子が。
みるみる内に、自分の耳が熱くなっていくのが分かる。


「神谷さん、神谷さん」

「え? あ、ああ、はい。なんですか?」

「ちょっとチュウしてもいいですか?」

「……」


ここは! 中村君の家!!

ハッと気が付けば、ちゃんは俺の肩を掴んだままだ。
ヤバイ! このまま彼女のペースでチュウってうわ、つられた! キスなんかしちゃったら、俺、絶対止まれない!

ここは! 中村悠一君のお家!!


ちゃん」

「はい?」

「先にちょっと着替えといで。いい加減寒いでしょ、その格好」

「えー、平気ですよー」

「平気じゃない」


俺が。


「ちょっとチュッてするくらい、すぐなのに……」

「ブツブツ言わない。別れるよ?」

「そ、それはイヤ!」


ちゃんはブンブンと首を振り、慌てて寝室の方へと駆けて行った。
彼女の姿が見えなくなり、ようやく安堵の息を吐く。
そんな俺に、寝室から首だけ出したちゃんが声を掛けた。


「神谷さん! 着替えたらしてもいい?」

「っさい! 早く着替えろ!」


ちゃんの頭を掴み、無理やりドアの向こうへと押し込める。
そのままズルズルと座りこみ、自分の頭を抱えた。

彼女になったんだ、あの、頭が少し弱くてマイペースな子が。


「……」


未来に思いを馳せてみても、ひたすらに振り回されている自分の姿しか想像できない。
い、いいのか? よかったのか? 俺。


「神谷さーん」

「なーにー? 着替えが終わるまで、出てきちゃ駄目だからねー」

「うんー」


背中越しに衣擦れの音が聞こえてくる。
……想像力豊かな自分が憎い。


「あのねー、神谷さんを怒らせたかった訳じゃないんですー」

「は?」

「裸エプロン」


少しだけしょんぼりとした声で、彼女は続ける。


「喜んでほしかっただけなんですけど、失敗しちゃいましたね」

「そうだね。大失敗だね」

「今度、リトライさせてくださいね」


その言い方に、思わず笑いが零れた。
「いいよ」と一言返し、観念したかのように扉へともたれかかる。


「1コずつ、ゆっくり覚えていってよ。……彼女になったわけだし?」

「アハハ、よろしくお願いします」

「言っとくけど、俺はスパルタだからね」


「分かってますよー」と笑うちゃんに、心の中で「分かってない」と呟いた。
分かっていない、全然。


「ホント、頭弱い……」

「何か言いましたー?」

「馬鹿って言った」

「え!?」







俺は、『裸エプロン』じゃなくて、そんな格好でずっと他の男と一緒にいた事に腹を立てたんだよ。バカ。




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