〜居酒屋さんにて〜




中村「……神谷さん、何か、やつれてません?」

神谷「気にしないで……ただの、気疲れだから……」

中村「疲れてる時に、そんな飲まない方がいいですよ。男の介抱なんてしませんから、俺」

神谷「いちいち言わなくても分かってるよ」

中村「何にそこまで疲労困憊してるんですか? ってそんなに激しいの?」

神谷「は?」


……。


神谷「ばっ、おま、馬鹿じゃねえの!?」

中村「あ、違うんっすか?」

神谷「ちっげえよ! 『気疲れ』だっつってんだろが! 話聞け!」

中村「だって、と付き合い初めてからでしょ? 神谷さんがやつれ出したの」

神谷「いや、まあ、その言い方だとちゃんが悪いみたいな言い方なんだけど……」

中村「けど、『原因』なんだ?」

神谷「…………こないだもさ」

中村「ふん?」

神谷「食材抱えて『来ちゃったv』がやりたかったとかでさ、うちに来たんだけど」

中村「来たんだけど?」

神谷「俺、確かにその日は仕事休みだったんだけど、たまたま一日留守にしてて……」

中村「あー」

神谷「帰ってきたら、俺ん家の前で膝抱えて待ってんの! 半べそかいて! 帰れよ! ちょっと待って帰ってこなかったら、諦めて帰れよ!」

中村(ちょっとは待っててほしいんだ……)

神谷「寒空の下で、思考回路まで凍りついたかあのお馬鹿さんは! というか、実行に移す前に『留守かもしれない』って事を可能性として思いつけよ!」

中村「か、神谷さん、ちょっと声のトーン抑えて……俺ら、無駄に通る声してるんですから……」

神谷「あー、もー……」

中村「どうどう」

神谷「……付き合ってみて、改めて分かった」

中村「うん」

神谷「あいつ、ほんっっっとうに頭が弱い」

中村「……『あいつ』」

神谷「な、なんだよその笑いは」

中村「いーえ? ちゃんと、彼氏彼女してるじゃないっすか」

神谷「そりゃ……彼氏彼女だもんよ」

中村「どうせ、その『来ちゃった』事件があったすぐ後に、大急ぎで合鍵作って渡したりしたんでしょ」

神谷「な……!?」

中村「神谷さん、に対しては過保護だからなー」

神谷「……」

中村「え、あれ? 神谷さん?」

神谷「〜〜死ね!!」

中村「照れ過ぎで、罵りの言葉に何の捻りも見られない! ちょ、赤面、赤面し過ぎだから!」

神谷「ちっげえよ、これはあれだお前! 熱が出たんだよ唐突に!!」

中村「ここ居酒屋なんだから、『酔ったんだよ』ぐらいにしときゃいいのに!」

神谷「うっせえ! も、見んな! こっち見んなー!」




中村「……落ち着きました?」

神谷「……大分」

中村「そら良かった」

神谷「――けどさー、マジな話、もう少し思慮深くなれないもんかねー、あの子」

中村「思慮深くなった時点で、もうじゃないような気がしますけどね」

神谷「そりゃそうかもなんだけどさー」

中村「さっきも言ったけど、ちょっと過保護すぎなんじゃないっすか?」

神谷「でも、俺の立場にもなってみ? 色々と気が気がじゃないぜ?」

中村「あー……」

神谷「好きな子が、裸エプロンで他の野郎と一緒にいるトコ想像してみろよ……」

中村「……」

神谷「ちょっとぐらい口煩くなっても、仕方ねーと思わねぇ?」

中村「俺だったら呪い殺しますね」

神谷「の、ろ……!?」

中村「相手の男を」

神谷「相手を!?」

中村「ハッハッハ、意外と嫉妬深いんすよ、俺」

神谷「いや、爽やかに照れてみても、さっきのドン引き発言は軽減されないから。むしろ、怖さが増してるから。やめて? マジで」

中村「そろそろお開きにしましょうかー」

神谷「え? あ、ああ、うん。珍しいな。今日は早――」

中村「用事があるもんですから」

神谷「用事? 今から?」

中村「はい。――ちょっと、神谷さんを呪い殺す準備が」

神谷「…………え?」

中村「んじゃ、おつかれっした〜」




……。




神谷「…………え!?」


























































中村(ったく……)


マフラーを口元まで引っ張り上げ、一人ごちる。
暗い夜道に、携帯の明かりが微かに漏れた。


From:
Sub:!!!

神谷さんから合鍵もらっちゃったー!(≧▽≦)ノシ


中村「……」


パチンと携帯を閉じ、そのままポケットにねじ込み歩き出す。


中村(惚気るなら、相手選んでやってくれませんかねー、二人とも)




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